殺人の追憶
「朝日さん、ありがとうございます……私が悪いんです……弱み、ハルハルに握られて……」
「弱み? なんだよ露子?」
「……ずっと、言おうと思ってたの。でも……敷島君に嫌われたくなくて……」
「もったいぶらねえで言えよ。早く森行くぞ、こっから時間巻きで行くからな」
「敷島君……私、人殺しなの」
中学の頃、イジメの主犯、碓氷ひさめの自転車に細工をして、事故死に追いやったこと。それを遙華につかまれて、脅されていたこと。大和にずっと隠していたこと……。大和もひどく驚いてたじろいだ。朝日は虫も殺せなさそうな露子の過去に、呆然とすることしかできない。
「私……私……思ってた……死ねばいいのにって! 本当に死ぬなんて、思ってなかったくせに……みんなは……私のこと、死神って、近寄らなくなって……しかたないよね……本当のこと、だもん……」
「露子! 俺の目を見ろ!」
大和は震える露子の手を取って、真っすぐに見つめた。見た目はAのような美少女だったが、瞳の輝きは、あの大和そのものだ。くっと顔が持ち上がり、眼鏡が陽できらりと光る。
「もういい。わかったよ。今は、Aをサイコ女から取り戻すんだ。確かにちょっとは驚いたがな……俺からはひとつだけ! 露子……お前が……殺したのが……自分じゃなくて、よかったよ。ほら、カメラ持てよ! イカレ女の悪事の証拠ばっちり収めるんだよ! ふん! 霧生にもひでえことしやがって! 朝日も行くぞ!」
「お兄ちゃん……! うん!」
「いいの? 私、ずっと嘘ついて……」
「くどいぞ! 露子、俺お前に、そのこと聞いたか!? 聞かれなかったからってことにしとけ!」
露子は涙を拭いて、カメラを握りしめた。大和は露子に殺虫スプレーを一本渡した。大和は足の遅い露子を、前みたいに抱き上げて、走りだした。露子は大和の細い首に腕をからませた。泣きそうなのを必死でこらえながら、遙華についてしゃべった。遥華の家系についてだ。大叔母の春江は、虫に頭を食い殺されて、自殺した。春江の兄、遥華の祖父の遠哉は、宗教にのめり込んだことも。遥華はそれらのことを秘密にして、Aを神に捧げようとしていたこと。
「アイツの祖父さんがねえ! 俺らの祖父さんは、忘れたかったみてえだけど! でも、逆だな! 孫の代になってさ! 俺らは忘れも隠し立てもする気ねえのに! 風晴は! Aもバケモン神様も独占ってわけか! 身勝手な奴!」
次は遥華の能力についてだ。近くで見ていて、感じたことがあった。それをぶつかる前に伝えなくてはならない。大和の腕の中で、言葉を続けた。
「あとは……ハルハルの力……PK! サイコキネシス! たぶん……能力に限界があると思う。少なくとも自分の体重以上のものは、持ちあげられない。重い物を動かす時には、力を集中しないといけない……飛んだり人を浮かせられるなら、そうしてるはず……敷島君と朝日さんを倒した時も、一人ずつだった……軽い力でいいものなら……広範囲に使えるみたいだけど……それに、防御にも使ってる。Aちゃんにものすごい力で打たれても平気な顔していた」
「どうすりゃ! いんだ!?」
「でもね、ちょっとほっぺが赤くなっていた…PKっていっても、桁外れの力は出せないの……ハルハル……もしそうなら、敷島君も朝日さんも……首をねじ切られていると思う……だから、近づいて、叩くしかない……」
「あいつの能力以上のパワーでか……!」
「お兄ちゃん! あれが、桜の森だよね!」




