懲罰
「『非時香菓』か。桃の実には魔を払う力があって、こっちは不老不死だったか。無敵アイテムだな。しかし、Aもやるな。ハンドパワーってのかね。風晴も妙なことしてきやがったが」
本当に不老不死の果実なんて、大和にも信じられなかったが、ないよりはある方がいい。伊邪那岐が桃でそうしたように、投擲武器にするのもいいかもしれない。
「うん……いきなり引っ張られて……あれって超能力?」
「ああ……サイコキネシスってやつだな。あいつはサイコパスだけど! 物体を手を触れずに動かす力……さすが神意理解者、神に選ばれし者ってとこか」
「なんであんな人が……」
朝日は不思議そうだった。神様ももっといい人を選べばいいのにと思った。
「神のみぞ知るってな。神っつっても、イイもんばっかじゃねえってことだよ。他になんかないのか?」
「あ、これ、昨日洗濯した昔の制服」
「なんでこんなもん?」
聞けば、これを大和が着れば、敵の目をごまかすことができるのだという。一種の迷彩の役割があるというのだ。家でこれを思いついた時、朝日は手を叩いてそのひらめきに感動した。
「はぁ!? お前ふざけてんのか? 大体あいつ今夏服着てんだぞ!」
「なんでもいいっていうから!」
大和は無言で服をひったくって、買い物バッグに殺虫剤と一緒に入れた。
「もう行こうぜ! 遺跡によ! 暗いからこれかぶれ」
買い物袋からヘッドライトを出して、朝日にかぶせた。潮音は不思議そうにしていた。そんな彼女にはなんにも言わないで、兄妹は演劇部室を飛び出していった。桜色の大気を切り裂いて、プール近くの丘を駆け上がった。大和は自分は模造刀を持っているが、朝日に近接武器がないことに気づいた。そこら辺に落ちていた丈夫そうな樹の枝を拾って朝日に手渡す。
「朝日、これ。武器」
「はぁ? お兄ちゃんこそふざけてんじゃないの! そっちの剣ちょうだいよ!」
「贅沢いうな! これは俺のなんだよ! お前俺より体大きいんだから、いいだろ!」
「ったくもう! こんなのいらない! 行くよ!」
洞窟のような遺跡に飛び込んだ。大和はずんずん進んでいくが、朝日の方は窮屈そうだった。しかし、立ち止まることはできない。
「この文様! Aちゃんの背中の!」
壁の模様が目に入る。兄妹の記憶の底にある、このミミズがのたうつような模様。これについては、風晴遥華との戦いを終えてから、ゆっくり考えることにした。再び世界に黒の絵の具がまかれ、あの奇妙な光が見える。
「あれが、異界の入り口!」
「ああ! お前は初めてだから言っとくが、まぶしいぞ!」
敷島兄妹は白い光に包まれた。一方、遥華と一緒に行動していた露子はおぞましい光景を目にしていた。遥華は露子に行き先への道を思い出すように言って、Aを能力で抑えこみ、荷紐で後ろ手に拘束し、猿轡を噛ました。そして、美しい常世の国に、霧生の許しを請う哀れっぽい声が響き渡る。
「遥華さん……お願い、許して……」
「バケモノを送る前に、かすみにお仕置きしなきゃ。そこ正座ね。私の気が収まらないの。大和君に会いたくないって言ったのに……どれだけ無能なの? 前の学校で生徒にイビられてリスカして、私に救ってもらった恩をいつになったら返すの? ねえ~露子ちゃん、かすみね、昔、生徒に言い寄られてさぁ~それで断ったら逆上しちゃって、イビられたんだって。それで、友達の誘いでお祓いで私のとこに来たの。見る? 気持ち悪い傷……あ、ほとんど私がつけてあげたんだけどね」
ひとりでに霧生の服は引き裂かれて、無残な右手がさらされる。露子は恐ろしさに息を止めた。平気で他人を痛めつける遥華が恐ろしかった。Aもすっかり怯えている。遥華の残忍な心と、霧生や露子の恐怖心が感じられた。




