露子との電話
「話はそれだけか? じゃあ行くぜ」
「ねえ……潮音ちゃん……佐内君、電車に飛び込んだって……それで、もう……」
「えっ!? 何? エイプリルフールってんじゃないよね!」
潮音は美砂子と顔をくっつけ合うように、スマホの画面をのぞき込んだ。他の中学の友人と共有しているSNSがそれを伝えた。調べてみると、電車の運行情報に、人身事故のことが書かれていて、信憑性を高めている。
「あの野郎が……死んだ……? 電車に飛び込んで……?」
大和はこれが単なる自殺には思えなかった。さすがに嫌な汗が背筋に流れる。
「なんか気味悪い……あんな奴、何匹死んだっていいけど……ねえ、敷島君にやられたのが悔しくて、とかじゃないよねえ?」
潮音もちょっと恐ろしく思っているようだ。大和は黙って首を横に振った。二人を朝日たちのところまで戻らせた。
「じゃあ、俺らはこのくらいで帰るわ……一応言っとくか。この学校の山について、取材しててな。最近ヤバイ虫が湧いてんだよ。黒い芋虫みてえな奴だ。気をつけろよ。たぶん大丈夫だと思うんだが……あと、プール近くの遺跡だがな、あの辺に虫が多いんだ」
「うねうね! うねうねは……コワいから、コワい……痛い……」
朝日はそっと後ろからAの肩を抱いた。Aは朝日のふっくらした手に手を重ねて、また少し落ちついた。
「ほら、こいつも怯えてる。猛毒なんだよ。お前らも殺虫剤買った方がいいぞ」
「あ、うん。そうする……」
大和たちがあまり真剣なものだから、潮音たちは素直に聞き入れるしかできなかった。
「じゃあ、邪魔して悪かったな。今日は帰るぞ! 露子の連絡待ちだな……風晴からなんか情報を引き出せてるといいんだがな……」
三人はゆっくりと歩いていった。大和は露子に連絡するようにメールを打った。もう、夕闇が迫り、死にかけの太陽が悲鳴をあげていた。家についた三人は着替えや食事を済ませて、あの和室に集まった。ちなみに今日の夕飯は朝日の担当で、豆腐ハンバーグとサラダ、大根の味噌汁だった。Aはご飯を三杯もお代わりして、大和は食費を気にしている。
「今日は一緒に寝るぞ」
「一緒に寝る? 私たちとお兄ちゃんが?」
大和は三人分の布団を和室に並べながら、言った。自分の布団に座って、部屋を眺めた。民芸品のツボと印刷の掛け軸が妙に落ち着く。
朝日はいまにも「不愉快だ!」と言い出しそうに、じろりと目を向けながら言った。
「きのうはツユコといっしょで、こんどはヤマトと……次はみんなでいっしょにねよう?」
Aは初めてお泊りをする子供みたいにはしゃいで、大和の手をとって、朝日の手をとって、大きく振り回した。朝日も苦笑いを浮かべながら、それに付き合った。
「お前は……まったく。すげえ美人なんだから、すましてりゃ……らしくねえか」
「おすまし?」
小首をかしげる仕草が可愛らしかった。初めて出会った時みたいに、口を一文字に結んで、きらきらと瞳に輝く感情を押し殺して、すました顔をすれば、素晴らしく儚げで夢のような美少女が完成するだろう。しかし、それはいくら美しくても、Aには似合わない。
「笑ったり泣いたりしてる方が、いいに決まってるか。その方がお前っぽくて可愛いよな」
つい似合わないことを言ってしまって、ごまかすみたいに露子の話をした。
「いつまで返事よこさねえんだよ。そろそろかけ直すか…………あ、通じた。おい、露子! お前どうしたんだよ! 何? 風晴とのおしゃべりに夢中? おーいいねぇ。で、何か聞けたか? はぁ!? そんな昔の親戚のことなんかよく知らねえ!? なんだよそれ! ったく! お前のこと頼りにしてるとか、お前いなきゃしまらないとか言って損したぜ」
大和は大げさな身振り手振りで話をAや朝日にも伝えようとした。朝日の目には、学校で見るより楽しそうにうつった。




