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常世の国の揚羽蝶  作者: カメコロ
第五章 古の邪教、常世の神
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人生いろいろ

「ねえ、敷島君、朝日……ちゃんって本当にあなたの妹? 血、つながってる?」

「はぁっ!? んだよそれ!?」

「だって、なんで敷島君の方が背低いの。ああでも……よく見ると、ちょっと似てるかも。敷島君って女顔だね。よく見ると……演劇部の衣装着てみる?」

「うるさい!」

「あはは! お兄ちゃん、地味に気にしてるもんね?」

「あー! ヤマト赤い! なんだかかわいい!」

 

 大和は言う方なくて、不快だというように黙りこんでしまった。潮音と美砂子は、Aの方にも興味をもった。

「えーちゃん……だっけ。奇麗な髪だよね……映画みたい……外国の子なの?」

「まあ……そんなとこだな」

 今この二人に常世の国の話などしても、めんどうなだけに思えた。どうせ一連の事件はルポになるのだ。その時に、みんなを驚かせたかった。


「どこの国?」

「えっと……留学生で……北欧だよ、北欧! フィンランドとかさ! それでちょっと日本語は不自由なんだよ。プラチナブロンドって、そっちの方に多いんだろ?」

「何、『とか』って。ハッキリしないな。エイコってどう考えても日本人の名前でしょ」

「ハーフなんだよ! 片方が日本人で……ほら、瞳も黒いだろ? ずっとフィンランドで暮らしてたんだけど。だから日本語がちょっと。まあバイリンガルって言っても、難しいんだな。で、日本に来たのは……ルーツを探るってあるだろ?」


「プラチナブロンドってすっごい珍しいんでしょ。それにハーフだからってそうそう金髪になるもんじゃないって聞いたことあるんだけど」

 潮音はガンガン追求してくる。大和はぜひ新聞部に欲しいと思った。一から常世の国について、今、説明するのは骨が折れそうだったが、もうそちらの方がいいかもしれない。


「今はそれはいいか。うちに来たら、演劇部に遊びにきてね」

「えんげき……?」

「え! ああ、えっと……芝居っていうか」

「それもわからないと思う……」

 ぼそっと美砂子が口を挟んだ。潮音は赤くなって、「わかってるよ!」と彼女に叫んだ。美砂子はくすりと笑って、それからまた黙った。

「フィンランド語なんてわかるわけないじゃん! 敷島君、今度までに説明しといて」


「今度っていつだよ!」

「それは置いといて……朝日ちゃん、えーちゃん、ちょっとだけ、お兄さん借りるね」

 朝日やAは何か分からなかったが、大和にはなんとなく察しがついた。二人を演劇部室の前に残して、廊下の隅へ向かう。

「ねえ、気になってるんだけど、露子の昔のこと、どこまで知ってるの?」

「そっか。中学からのツレだもんな。今日、あいつと駅にいたら、佐内とかいう野郎に絡まれててよ」


「あの糞馬鹿男……まだそんなこと……」

 心の底から湧いてくる憎しみが、瞳にあふれるかのようだった。美砂子もそのことは知っているらしく、辛そうに廊下の床を見ている。

「なんか鬱陶しかったからな。ちょうど殺虫剤持ってたから、ぶっかけて目潰しして、髪つかんで顔面自販機と地面に叩きつけて、逃げてきたんだよ」

「ええっ!? マジで!? 佐内を? やるじゃん敷島君! あいつ、いい気味!」

 楽しそうに手を叩いて笑い出した。美砂子はそんな潮音をたしなめた。

「ダメだよ……そんなに笑っちゃ」


「いいじゃん。あいつ、碓氷と一緒に、露子に、ヒドイことして……でも敷島君、すごいじゃない。さすがみんなに乱暴って言われるだけのことはあるね!」

「私たちは……露ちゃんに何もしてあげられなかった。黙ってみてるだけの……カカシ。だから、こうして高校に上がっても、やっぱりあの子のことが心配で……でも敷島君が、露ちゃんと仲良くしてくれて、うれしい」

 美砂子はおとなしげな口元から、一言一言を絞りだすように、しっかりと喋った。


「まあ……人生いろいろだからな。これからの新聞部のためにも、あいつには元気でいてもらわねえと困るんだよな。しかし、あいつ、なんで電話に出ねえんだ。風晴になんかされてんじゃねえのか」

「風晴さんかぁ……なんか悪い噂とかあったかなぁ。美人で、でもいい子だって、みんな言ってるけど……」

 

 潮音は難しい顔をして空中をにらんだ。美砂子もとくに思い当たることはないみたいだ。美砂子は手持ち無沙汰で、スマホの画面をなんとなく覗き込んでいた。


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