演劇部の二人
何人かの女生徒が机を寄せて話し合いをしている最中だった。ちょっとタイミングが悪いようだが、そんなことを気にする彼ではなかった。
「新聞部です。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「あなた、敷島君だよね。いきなり入ってきて……」
気の強そうな女の子、夏島潮音だ。後ろにはオドオドした三春美砂子がひかえている。
「夏島と三春か。いや、悪いな急に。ちょっと急ぎなんだよ」
「何?」
いかにも不愉快で早く済ませたいという風に、潮音は眉をひそめて大和をにらんだ。美砂子はケンカにでもなったらどうしようと、おっかなびっくり大和を見下ろした。ドアの向こうからのぞいていた朝日も気が気でない。こんなでよく新聞部などと言えたものだと思っていた。
「霜鳥露子、仲いいんだよな。今どこにいるか知ってるか? 電話つながらなくてさ」
「……三組の風晴さんと歩いてるのみたけど。心配してるの?」
「心配っていうかな。まあ……新聞部の仕事で……」
潮音の懐疑的な眼差しはずっと続いていた。
「ふぅん……まあいいか。ねえ、敷島君、露子にヒドイことしたら許さないからね」
「はぁ? なんだよその人を犯罪者扱いする眼差しはよぉ?」
「潮音ちゃん……やめようよぉ……」
大和が声を荒げると、気の弱い美砂子は不安でおろおろしながら、潮音の肩を揺さぶった。
「……敷島君、ちょっといい……あ、ごめんね、すぐ戻るから……」
潮音は美砂子と共に、大和を廊下に連れだした。女の子が二人いるのに面食らったが、大和との話の方が大事だった。
「私、露子が心配なの。前にあったでしょ。敷島君が取材中に問題起こしたって。露子は気が弱いから……それに……中学の頃から知ってるし……」
「……俺は、あいつのことを、気の合う仲間だって思ってるよ。この一年間、いろいろ話してさ、結構頼りにしてるんだ。今やってる取材だって、あいつと一緒じゃなかったら……。部活もさ、露子がいねえとしまらないっていうか……」
大和はちょっぴり気恥ずかしそうに、頭をぼりぼりやっていた。露子のことをこんな風に誰かに言うのは初めてだ。潮音はそんな大和の態度を見て、少し安心した。露子は口で大丈夫だと言っていても、そうでないことがかなりあったが、今回は本当に大丈夫そうだ。
「あの、横からすいません。霜鳥さんと兄のことなら、大丈夫だと思います。兄は乱暴でガサツで、人に迷惑ばっかりかけてますけど……でも霜鳥さんとは本当に気が合うみたいでした」
「ヤマトとツユコはなかよしだよ!」
「なんでてめえら! ホントに! 横から!」
「そういうことならいいんだけど……って兄? 弟じゃなくって……? それに……うちの制服? あとこの白い髪の子何? すっごく奇麗……」
潮音が目を白黒させて、Aと朝日を見た。一緒の美砂子も何が何やらという表情で、四人を見回している。
「あっ! 自己紹介忘れてた! 私、敷島朝日っていいます。この人の妹なんです。この四月からこの学校に入ることが決まってて、今日は……その、ちょっと見学? とかできたらなぁーって思って……こっちは……後輩の……え、エイコちゃんっていいます。ほら、Aちゃん! お辞儀して」
Aは見よう見まねで朝日にならって、潮音たちに頭を下げた。潮音は何やら感じ入ったように、二人の女の子を眺めた。
「先輩すみません。兄が迷惑かけて……もうすぐこの学校に入るから、先輩ですよね。ちょっと早いですけど、よろしくお願いします。私のことは朝日って呼んでください。敷島が二人だとわかりにくいだろうし……」
一人はあの風晴遥華と同じくらいスタイルが良くて、よく通る気持ちのよい声をしていた。性格もよさそうだ。さらに目を引くのは、銀髪と真っ黒な瞳の対比がこの世ならぬ美しさを放つ少女。だというのに、どこか幼くて爛漫なところがある。




