恐ろしいうねうね
「お兄ちゃん、あの世界って何? なんでAちゃんは、こんなに怯えているの? なんでジェットたちは死ななきゃいけないの?」
「俺が知ってることは全部話す。だから、とりあえずここを離れるぞ。そんな血まみれじゃいれねえだろ。Aも動転してるしな」
朝日は黙って兄の手からビニール袋をかすめ取って、鶏舎に入る。血に浸された生首を拾い、袋にそっと入れた。
「あ……ビニール、もう使えねえ……A! 行くぞ!」
「ヤマト……あたし、コワい」
今度は大和がAの手を引っ張って、家までの道を進んでいった。朝日も黙ってついてきている。ほどなくして一見立派そうな敷島家についた。朝日は目を伏せたまま、Aを連れて風呂場で血を洗い流した。
「この一連の事件、俺たちの祖父さんの代でも似たようなことがあったらしいんだ。歴史は繰り返すっていうかな……」
六十年前のことについて、朝日とAに話した。大和と朝日の祖父、敷島仁も「常世の国」に赴いたこと。それから、この街で嫌な事件がひっそりと増えたこと。中学校のウサギが何者かに殺されるという事件も起こっている。そして、同じ学年の風晴遥華と同じ名字の女生徒の自殺。
「すべての始まりはあの遺跡だ。祖父さんは『常世』のことを隠して、事態を治めようとしていたらしいがな。俺は違う。とことんまで調べてやるからな!」
「はぁ……お兄ちゃんらしいな。私も一緒にやるよ」
「どういう風の吹き回しだよ?」
「みんな、ずっと大切に育てたんだよ。それを殺されて……虫? なんでもいいけど、とにかく、あれが何なのか知って、もうこんなことが起きないようにしなくちゃって思うの。私、やるよ。このままになんてしておけない。あとお祖父ちゃんが関わってるんでしょ? だったら、私だって孫だし……」
朝日の可愛らしい瞳は、怒りと悲しみに燃えて、強い決意がみなぎっていた。
「うんうん……そう来なくっちゃな、敷島家じゃねえもんな」
「なにそれ、勝手に一緒にしないで」
「A、お前大丈夫か?」
朝日は無視してさっきから一言も口を利かない少女の心配をした。長い銀髪が悲しそうに垂れて、黒曜石の瞳はうつろだった。
「あたしのせい……うさぎさんやウコッケーが死んだのは……あたしがわるいの……」
「ああ? なんでそんな風に思うんだよ?」
「なんとなく、虫の気持ちがわかったの。死んだみんなの気持ちも……すごく痛かった。死ぬって……いなくなるって! すごくコワい……あたし、消えたくない……」
「Aちゃん、Aちゃんのせいなんかじゃないよ。あの虫? が悪いんだから……」
「うねうね、きっと、あたしを追ってるの。追いかけてくるの! あたしがここにいるから、はいだしてきたの……!」
朝日はこれ以上なんと言っていいのかわからず、助けを求めるように大和を見た。その兄はいきなり愉快そうに笑い出した。これにはAも一瞬きょとんとしてしまう。
「好都合じゃねえか! バケモンの方からこっちに来てくれるなんてよ! ほら見ろ、殺虫剤! 毒ガス兵器だぜ!? 俺らの方が、連中よりよっぽど有利だろ! なあそうだろ、朝日、お前もそう思うよなぁ? 戦争だよ戦争! バケモンとどっちが勝つか戦争すんだよ! 皆殺しにしてやるぜ! あ、気は進まねえけど、虫カゴに入れて見世物にするか?」
大和の脳天気な元気が、Aにも伝わった。彼女は感じやすいところがある。ほんの少しだけ、Aは久しぶりに笑顔を見せた。
「ヤマト、やさしいね。ありがと……」
「あ、Aちゃん、もしかして……お兄ちゃんが元気づけようとして言ってるとか思ってない? あんまりよく受け取らない方がいいと思うよ? 普通軽々しく戦争とか言うものじゃないんだからね」
「ああっ? なんだよそれは! とにかく行くぞ、ちゃっちゃと!」
「行くってどこに?」
「学校だよ! 露子と合流するんだよ! まだ調べてるはずだからな。それで……インタビューだな。風晴に! 六十年前に死んだ女ってのは、まあ九分九厘奴の親類だ。何か知ってるかもしれねえ」
「私たち、服は?」
「もうウチの高校の制服買ってあるんだろ? お前はそれでいいとして、Aは……昔の夏服着せてやれ。今日あったかいからな」
「その前に、済ませておきたいことがあるの」




