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常世の国の揚羽蝶  作者: カメコロ
第一章 謎の古代遺跡
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霧生と風晴の噂

「風晴、美人だったな。なんか突っかかってきやがったけど」

 中庭を抜けてもうすぐプールが見えるという時、大和は出し抜けにこんなことを言い出した。落ち込んだようにため息をついて、「風晴、俺より背高かったよな?」といかにも深刻げに言うのだった。彼は小柄な方で、


「次の身体測定では百六十センチを越えたい」と口癖のように言っていた。

「え! ああ! ハルハル! いつもああじゃないんだけど……どうしたのかなぁ。あ、えっと……そう、スタイルいいよね……あの子ね、委員会でも人気あってね……友達も多いし……」

「ふぅん……そーいやクラスの誰かが、風晴はいつも水泳の授業に出ないとか言って嘆いてたな。他の組の水泳とか関係ねーだろうに。あれは、森崎だったかなあ」

「ああ、うん。やっぱり男の子はハルハルみたいな……私とは違って……」

 露子は元気なさげに大和に返した。恥ずかしそうにうつむいて、くちびるを噛んでいる。

「……もういいよ。カメラ準備しとけ」

 

 彼らの住んでいる地域では、低い山が地を這いうねるように入り組み、谷を形成していた。谷戸と呼ばれる地形だ。丘陵地帯に海が迫り、平野が少ない。この高校も丘陵の狭い谷間に建てられている。敷地には小川が流れており、プールは橋を越えた山の斜面の近くに設けられていた。この周辺に件の遺跡があるらしい。

「敷島、きたな!」

 

 先ほど話題に出た、クラスメイトの森崎だ。急な斜面を登って、高台に行こうとする二人を見つけて声を出している。森崎は気のいい男で、大和と露子に手を貸してくれた。そこはまだ手入れがされておらず、草が茂り歩きにくい。その小さい台のような場所からは、校舎とその後ろの灰色で巨大な法面が見渡せた。さらに小さな祠がヤブに隠れるように、ひっそりとたたずんでいるのが見えた。これも気になるが、今は遺跡の調査だ。


 周りには幾人かの生徒たちが集まって、かなりざわついていた。部活で学校に来ていた生徒の中で物好きな連中が、謎の古代遺跡とはどんなものだろうかと見に来たのだ。しかし、遺跡は山の比較的高い位置にあって、しかも草木で覆われてよく見えなかったので、みんな不満そうにしていた。

「来ると思った。取材だろ?」

「話が早くて助かるよ!」

 森崎は山の奥を指さして見せた。草むらと木々に隠れているが、目を凝らすとそこに横穴がちらりと顔をのぞかせている。辺鄙なところにある上に、これらの植物のせいでいままで見つからなかったのだろう。


「でも見かけ地味だよな。草でよく見えないし」

「中に何があるかだな。人骨でも見つかるかもしれねえだろ?」

 大和は楽しげに森崎に言った。森崎も改めて謎の古代遺跡を眺める。


「でも、やっぱ入る気しないなぁ。ほら、みんな帰っていってるし……あ、そうそう、霧生先生が中確認してるみたいだぞ。さっき見たんだ」

「へえ、霧生って図書委員会の顧問だよな?」

 露子は首を縦に振った。

「霧生先生って可愛いよなぁ」

 森崎は声をひそめて大和たちにしゃべりかけた。大和は眉をひそめる。


「お前、ああいうのが好みなのか?」

「いや美人だろ? 人気あるんだよ。一部に……そういや、この一年授業受けたけど、薄着とか見たことなかったなぁ。見たいなぁ」

「お前は女のことばっかりだな。ちゃんと記事も読めよ」

「ちゃんと読むよ。遺跡、気にはなるけど、入りたくないし、お前らが調べてくれるの楽しみにしてるからな」

 

 そう言って、森崎は一足飛びに高台を降り、校舎の方へ消えていった。大和たちは気持ちを新たに新ネタの取材へ向かった。

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