遥華との会食
彼女が指定した店へ向かう途中、夏島潮音と三春美砂子に行きあった。潮音は短めの髪で気の強そうな女の子で、美砂子は反対に長い髪を後ろで束ねていておとなしそうだ。潮音が手を振りながら駆け寄ってきた。
「露子~! どうしたの、風晴さん、だよね。図書委員会の」
「露子ちゃんの友達?」
露子は首肯して二人に今日はどうしたのかと聞いた。
「もうすぐ入学式でしょ。だから、部活説明会の練習とか、その後の勧誘とか、打ち合わせしなきゃって。新聞部はどう?」
「そうだね……けっこういい感じ、かも。学校で見つかった遺跡のこと調べてて」
「へえ、遺跡ねぇ。で、敷島君にヒドイことされてない? あの人、結構乱暴でしょ?」
「あっ……敷島君はちょっと押しが強いけど、そんなヒドイことなんて……」
「ふぅん……だといいんだけど」
潮音は本当に露子が心配らしかった。遺跡にはあまり興味がないようだけども。美砂子は何も言うことが思いつかないのか、ちょっと気まずそうに、露子の隣の背の高い美少女に目をやった。
「ふふっ……私も遺跡に興味があって。露子ちゃんと二人でお話するの。潮音ちゃん、美砂子ちゃん、頑張ってね?」
二人はそれぞれ遙華に答えると、学校への道をまた進み始めた。それから、遥華は遺跡の取材について聞いていた。露子は異世界に飛ばされて謎の少女と出会って戻ってきたなんて言ったら、変に思われるだろうかと心配して、はぐらかしていた。電車を乗り継いで、目的の駅までついた。
「ほら、ついたよ」
人で賑わう街並みを進んで、ちょっと路地に入ったところにその店はあった。こぢんまりとしているが、落ちついた古民家風で、高校生二人きりで入るには、ちょっと敷居が高そうだ。遥華はカツカツと鮮やかな歩き方で、さっさと入ってしまう。置いてけぼりをくらうのは嫌で、ちょっとドキドキしながら入っていった。中は外観の通り、落ちついた和風にしつらえてある。洒落た花型のライトが、優しく光って遥華を照らしていた。うっすらとした陰影は、遥華の涼しげな目元を妖しく見せていた。
「予約してあるの」
「えっ……だって……」
通されたのは小さな二人用の個室だった。鍵が閉まっていたはずの図書室で待っていたことといい、何か奇妙だった。
「くすっ……今日はね、露子ちゃんと二人でお食事できるって、そんな気がしたんだぁ。私のカン、よく当たるから……」
お手拭きで丁寧に両手を拭きながら、遥華はまっすぐに露子を見つめた。露子はなんとなく気圧されるみたいで、思わずスカートの裾を握りしめてしまう。すぐに店員がやってきて、二人は烏龍茶を頼んだ。遥華は春野菜の天ぷらと和風ローストビーフを頼んだ。
「好物なの。この季節は、筍とかフキノトウとか、美味しいでしょ。逆に桃とかさくらんぼとか苦手なんだ。特に熟れてるのは、ぐちゃっとしてて、嫌なんだぁ。露子ちゃんは何が好きとかあるぅ? ……苺大福! 可愛いね? それで……私に聞きたいことって、多分……私のお祖父ちゃんの妹、大叔母さんのことでしょ? 六十年前に自殺した……」
「えっ……なんで知ってるの……?」
すべてを見通しているかのような、遥華の態度が恐ろしかった。




