バックナンバー
遥華が霧生をいたぶっている間、大和と露子は高校までの道を急いだ。また電車に乗って、最寄り駅から歩き、職員室で図書室の鍵を借りた。第二図書室はメインの図書室のカウンターの奥にあり、使いそうにない書物がぎっしり詰まっていた。薄暗くほこりっぽくて、学校の歴史が堆積しているかのようだ。二人は並んで卒業アルバム棚を眺める。
「俺の祖父さんだけど、えっと……高校生なら……このあたりか」
昭和二十年代後半から三十年代前半のアルバムを抜き出して、机に並べた。アルバムについていたほこりが舞って、光の中をきらきらと漂う。
「祖父さんの名前は……敷島仁。俺は三十五年から見るから……」
「私は二十五年から、だね」
ひたすら古い写真と名前の羅列をめくっていく。地味な作業だったが、奇妙な高揚感を覚えていた。あの地図を残した人物を特定し、何らかの手がかりがつかめるかもしれない。卒業文集にヒントでもあるかもしれない。三十五年、三十四年とたくさんの生徒たちが行き過ぎていく。
「昭和三十年! あったぞ! 三年六組、敷島仁……!」
卒業生一覧に載っていた名前、そして、集合写真に写っている小柄な若者。彼こそ、大和の祖父、敷島仁だった。
「見せて……ホントだ。ちょっと敷島君に似てるね」
小柄でどこか凛々しい雰囲気が、確かに孫を思い起こさせる。大和の方は眉根を寄せて、釈然としないようだ。
「似てる? そーかぁ? まあいい、他に手がかりは……」
昭和三十年度のアルバムを一枚ずつめくっていった。大和と露子は顔を寄せあっている。露子は頬が触れ合いそうになって、どきりとしたが、今は調査の方が先だった。あるページで手が止まり、二人の視線は一点に注がれた。
「新聞部部長! 敷島仁! 露子! 部室行くぞ! 今すぐ!」
昭和三十年度版だけを持って、他のはすべてしまった。そして、アルバムと殺虫剤と模造刀を抱えて、部室へ急いだ。部室は、遺跡に行った日と同じ、うららかな日差しに満ちていた。その光の中に、恭しく飾られた本が浮かぶ。古き良き時代の遺物、『神奈川県立梓馬高等学校新聞部五十周年記念特別号』だ。この本には新聞部創設以来のバックナンバーが縮小版として収められている。
「昭和三十年あたりの記事を漁ろう!」
部室の椅子に座って、第二図書室の時と同じように体を寄せた。学校の四季の変化や生徒たちの受賞や部活の活躍、新任教員の紹介などの記事の中に、気になるものを見つけた。
「この記事……『古代ロマン 校内に古墳見つかる』だって」
「おいでなすったな! 昭和三十年は……一九五五年だから……六十年前にも、あの遺跡は見つかっていたんだ!」
昭和三十年四月号の縮小版によれば、校内のプール付近で人工的な横穴が見つかり、その調査に新聞部が正式に乗り出したというのである。土器も見つかり、それは部室に保管しているということだった。
「えっと……『遠い昔の、この地における人間の営みが、現代を生きる我々の前に姿を表したのである。太古のロマンを感じずにはいられない。土器の作成年代や古墳の建造目的等については、今後とも全力を以って調査していきたい。続報を待たれよ。三年 敷島仁』だって。これ、敷島君のお祖父さんの記事……」
「……確定か。あの地図、俺の祖父さんが書いたらしいな。で、続報とやらは?」
ページをめくり、五月号や六月号に目を通した。しかし、それらしい記事は見つからない。発見当初は全力で調査するから続報を待てと書いておきながら、それ以降音沙汰ないのはいかにもおかしい。




