表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
常世の国の揚羽蝶  作者: カメコロ
第四章 侵食される現世
51/86

遥華とかすみ

 露子たちが心機一転、謎の調査に向かっていた時、風晴遥華は中学時代の友達からの唐突な写真付きメールに色めき立っていた。遥華は閉鎖されているはずの学校の屋上に立ち、中庭に咲き誇る桜を眺めていた。少しずつ、風に桜の花びらが混じっている。柵のない屋上の縁に立つ遥華。すらりと伸びた手足と折り目正しく着ている制服、自信に満ちた麗しい相貌が凛とした印象を与える。

「……そう、二人だけだった? 敷島君と霜鳥さんの……連れてきていないのか、別行動なのか……ああ、なんでもないよ。とにかく、そういうことだから、じゃあ、またね」

 

 駅であの二人に遭遇した女との通話を切った。

「敷島君って乱暴。それにしても、私ってついてるね。神様の言うとおりぃ!」

「うん……そうだね、遥華さん……」

 そう答えたのは、ショートヘアと銀色のフレームの眼鏡が良く似合う美人だった。神経質そうに、髪をいじっている。図書委員会の顧問の霧生かすみだった。

「アレは一緒にいないみたいだけど……まだ連れ帰ってない、ってのはさすがに自分に都合良すぎかな? ねえ、かすみ? かすみはどう思う?」

 

 友達というよりは、目下の人間に甘くしてやる支配者みたいな口調だった。霧生は厳しそうな眉をきっと歪めて、苦しそうにして黙っている。助けを求めるような、哀れっぽい眼差しを遥華に向ける。

「何黙ってるの? 答えなさい。かすみのせいだってこと、ちゃんとわかってるの? 私言ったよね。遺跡! 見つかった日! 誰も! 中に! 入れるなって!」

「入らないように言ったけど、あの二人が無視して……」

「あなたがちゃんと注意しないからでしょ。敷島君がちょっとやそっとで従うと思うの? それくらいわからなかった? 一年間彼に授業してたのに、そんなこともわからないの? 教師失格だね」


 冷たい香水に浸した剃刀のような声だった。霧生は髪の毛を弄るのをやめて、代わりに親指を口に当てて、爪を噛み始めた。ストレスに応じて、髪から爪になるらしい。無力な子供のように、一心不乱に爪を歯で削り取る。

「その自傷行為、気持ち悪いからやめてって言ってるよね。 なんで? 私の言うことなんできけないの?」

 霧生は誰かに引っ張れたように、手を口から放して、急に転んでしまった。地面にうつ伏せになったまま、起き上がろうともしないで、遥華のことを上目づかいに見つめた。恨むような愛しむような、たくさんの気持ちがないまぜになった瞳の色だった。


「ごめんねぇ? かすみぃ? かすみが使えないのも、気持ち悪い自傷癖が治らないのも、私のせいだよぉ」

 背が高くてすらりとした遥華は、人を見下ろす時、なんとも言えない高慢な美しさをまとう。ポケットから爪切りを取り出して、霧生の手をとった。

「こっちの親指、ちょっと爪がささくれてきたね。もう噛まなくていいように、奇麗にしましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ