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常世の国の揚羽蝶  作者: カメコロ
第四章 侵食される現世
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新しい朝

 翌朝、朝食の席には、食パンと自家製のマーマレード、サラダ、目玉焼きが並んでいた。朝日はAのために、パンにマーマレードを塗ってあげている。

「敷島君に朝日さん、お願いがあるんですけど……」

大和には例の幼虫の駆除を止めるように、朝日には昔の制服を貸してもらうように頼んでみた。後者の方はすんなり承諾してくれた。

「ああー! その制服! ちょっと大きめの買ったんですけど、すぐ合わなくなっちゃって……もう着ないし、あげますよ。Aちゃんにも似合いそうだし」


「あの……すいません、昨日勝手に着せちゃったんですけど……ピッタリでした」

「ピッタリ……? Aちゃんとピッタリってことは……そうだ! お兄ちゃんも着てみる? 女顔だし似合うよきっと!」

 朝日はからかうように、大和の顔をバターナイフで指した。

「ふざけるな! なんで俺がお前の制服着なきゃいけねえんだよ! で、俺へのお願いってのはなんだよ?」

「あっ……えっと……昨日、お庭の橘の木にアゲハチョウの幼虫を見つけたんだけど……殺さないであげてほしいの」


「なんで? なんで? 殺すに決まってんだろ!」

 橘にアゲハチョウの幼虫がついていると聞くやいなや、さっそく駆虫に乗り出そうとしていた。

「ダメだよ、ヤマト、殺さないで……殺すのってよくないんだよ。ジゴクだよ」

「あの一匹だけだし、もうすぐ成虫になるから、待ってあげてくれないかな……」

 露子とAの攻勢に大和もたじろいでしまう。それに妹の朝日まで加勢してきた。朝日は眠たそうに目をこすりながら、自分のパンにマーマレードを塗っている。


「いーじゃん一匹くらい。だいたいお兄ちゃんは潔癖症なんだよ。私がウサギ飼いたいっても、フンが~抜け毛が~臭いがって嫌がるしぃ!」

「だって汚いんだからしょうがねーだろ! そもそも! 一匹だけっていうがな、その一匹が問題なんだよ。蟻の一穴って言葉があるだろ」

「なにそれ。蟻じゃなくて蝶々じゃん!」

「もののたとえってのがわからねえのか?」

「ヤマト……だめなの? 殺しちゃうの?」

 

 Aは半分くらいまで食べたパンを置いて、懇願するような目を向ける。露子も同じだった。朝日はもしゃもしゃとパンにかじりついているが、やはり批判的な眼差しを大和に向けている。

「なんだよ、俺が悪者かよ。はぁ~見逃すのは一度きりだからな。その成虫が幼虫を再生産していくのに……」

 大和は納得できないようで、ぶつくさ言っている。

「やったぁ! ヤマトありがと!」

「敷島君、ありがとね」

「はぁ……さっさと飯食って行くぞ」

「あ、私は一度お家に帰らないと。心配してるし……」

 露子は申し訳無さそうに切り出した。本当なら大和と一緒に、学校で調べ物といきたいのは同じだ。

「第二図書室って俺入れんの?」

「あ、そっか。私がいた方がいいよね。なるべく早く出てくるから、そしたら連絡するよ」

「お兄ちゃん、霜鳥さん送っていったら。今日ね、私、最後の飼育委員行こうと思ってて。ルビーやジェットたちとも、今日で最後だし……」

 

 ルビーやジェットというのは、それぞれウサギと烏骨鶏につけた名前だった。白いウサギの瞳の色、烏骨鶏の真っ黒な羽毛がその由来だ。他の烏骨鶏は白いものばかりだったが、そのジェットだけは真っ黒だという。

「ジェット、黒玉ですか。化石化した木……」

「あ、よく知ってますね。真っ黒だから……石の名前調べて。一匹ずつ名前つけたんです。ウサギやニワトリってよく見るとそれぞれちがうんですよ」

 

 露子は感心したように相槌を打った。Aはその未知の生物について興味を示していた。

「アサヒ、それってトリ?」

「そうだよ。あ、そうだ! Aちゃん、一緒に行かない? ちょうどよく制服も、私のお下がりがあるし!」

「ウサギ、ウコッケー、みたいな!」

 

 大和も露子もAの意志を尊重することにした。Aのお守りを朝日に任せて、二人で超常現象について研究したかったのだ。

「じゃあ決まりだね。食べ終わったら、制服に着替えて」

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