新しい朝
翌朝、朝食の席には、食パンと自家製のマーマレード、サラダ、目玉焼きが並んでいた。朝日はAのために、パンにマーマレードを塗ってあげている。
「敷島君に朝日さん、お願いがあるんですけど……」
大和には例の幼虫の駆除を止めるように、朝日には昔の制服を貸してもらうように頼んでみた。後者の方はすんなり承諾してくれた。
「ああー! その制服! ちょっと大きめの買ったんですけど、すぐ合わなくなっちゃって……もう着ないし、あげますよ。Aちゃんにも似合いそうだし」
「あの……すいません、昨日勝手に着せちゃったんですけど……ピッタリでした」
「ピッタリ……? Aちゃんとピッタリってことは……そうだ! お兄ちゃんも着てみる? 女顔だし似合うよきっと!」
朝日はからかうように、大和の顔をバターナイフで指した。
「ふざけるな! なんで俺がお前の制服着なきゃいけねえんだよ! で、俺へのお願いってのはなんだよ?」
「あっ……えっと……昨日、お庭の橘の木にアゲハチョウの幼虫を見つけたんだけど……殺さないであげてほしいの」
「なんで? なんで? 殺すに決まってんだろ!」
橘にアゲハチョウの幼虫がついていると聞くやいなや、さっそく駆虫に乗り出そうとしていた。
「ダメだよ、ヤマト、殺さないで……殺すのってよくないんだよ。ジゴクだよ」
「あの一匹だけだし、もうすぐ成虫になるから、待ってあげてくれないかな……」
露子とAの攻勢に大和もたじろいでしまう。それに妹の朝日まで加勢してきた。朝日は眠たそうに目をこすりながら、自分のパンにマーマレードを塗っている。
「いーじゃん一匹くらい。だいたいお兄ちゃんは潔癖症なんだよ。私がウサギ飼いたいっても、フンが~抜け毛が~臭いがって嫌がるしぃ!」
「だって汚いんだからしょうがねーだろ! そもそも! 一匹だけっていうがな、その一匹が問題なんだよ。蟻の一穴って言葉があるだろ」
「なにそれ。蟻じゃなくて蝶々じゃん!」
「もののたとえってのがわからねえのか?」
「ヤマト……だめなの? 殺しちゃうの?」
Aは半分くらいまで食べたパンを置いて、懇願するような目を向ける。露子も同じだった。朝日はもしゃもしゃとパンにかじりついているが、やはり批判的な眼差しを大和に向けている。
「なんだよ、俺が悪者かよ。はぁ~見逃すのは一度きりだからな。その成虫が幼虫を再生産していくのに……」
大和は納得できないようで、ぶつくさ言っている。
「やったぁ! ヤマトありがと!」
「敷島君、ありがとね」
「はぁ……さっさと飯食って行くぞ」
「あ、私は一度お家に帰らないと。心配してるし……」
露子は申し訳無さそうに切り出した。本当なら大和と一緒に、学校で調べ物といきたいのは同じだ。
「第二図書室って俺入れんの?」
「あ、そっか。私がいた方がいいよね。なるべく早く出てくるから、そしたら連絡するよ」
「お兄ちゃん、霜鳥さん送っていったら。今日ね、私、最後の飼育委員行こうと思ってて。ルビーやジェットたちとも、今日で最後だし……」
ルビーやジェットというのは、それぞれウサギと烏骨鶏につけた名前だった。白いウサギの瞳の色、烏骨鶏の真っ黒な羽毛がその由来だ。他の烏骨鶏は白いものばかりだったが、そのジェットだけは真っ黒だという。
「ジェット、黒玉ですか。化石化した木……」
「あ、よく知ってますね。真っ黒だから……石の名前調べて。一匹ずつ名前つけたんです。ウサギやニワトリってよく見るとそれぞれちがうんですよ」
露子は感心したように相槌を打った。Aはその未知の生物について興味を示していた。
「アサヒ、それってトリ?」
「そうだよ。あ、そうだ! Aちゃん、一緒に行かない? ちょうどよく制服も、私のお下がりがあるし!」
「ウサギ、ウコッケー、みたいな!」
大和も露子もAの意志を尊重することにした。Aのお守りを朝日に任せて、二人で超常現象について研究したかったのだ。
「じゃあ決まりだね。食べ終わったら、制服に着替えて」




