きせかえてみよう!
大和はとにかく風呂に入りたかった。最初は三人に譲ったが、体が磯臭くて仕方がなかった。露子とAを和室に通して、お客用の布団を引っ張り出してきた。
「ヤマト、アサヒ! ありがとー!」
布団の上でごろごろと転がりながら、Aがお礼を言うのだった。露子もかすかな声で「ありがとうございます」と言って、頭を下げた。
「じゃ、また明日な。おやすみ」
「霜鳥さん、Aちゃん、おやすみなさい」
敷島家の二人がそれぞれの部屋に消えて、部屋は静かになった。といっても、Aは枕で遊んだり、タンスのものを引っ張りだしたりして遊んでいる。
「Aさん、あんまり部屋のもので遊んじゃダメですよ……」
「この入れ物の中、布でいっぱい! ほら、これみて! アサヒの匂いがするよ」
そう言って、棚の奥から、朝日の中学のセーラー服を取り出してみせた。今の朝日の体には小さいようだ。体がどんどん成長していくから、合わなくなってタンスの肥やしになっているのだろうと露子は推測した。
「へえ……いいね。ちょうど、Aさんに似合いそうですよ」
そう言ったら、Aもその気になって、来ていたパジャマをいきなり脱ぎ始めた。下着は子供の頃の朝日のもので、彼女の好きな動物、ウサギのマークが愛らしかった。
「……きせかえ、してみましょうか」
Aの四肢の細くて美しいことといったらなかった。この最高級の人形を相手に、きせかえごっこをして童心に帰るのも悪くないと思えた。
「ばんざい、してください」
Aは露子に言われるまま、天井に腕を伸ばして、なすがままにした。上半分が入って、次はスカートだ。子供っぽい可愛い下着が、紺色の布で覆われていく。
「できあがり、です。可愛い……ああ、姿見、ないかな?」
女子中学生ルックのAは、とても愛らしかったけれど、何か奇妙だった。雪よりも白く輝く肌と髪、悲しみも喜びも、すべて秘めて黒く深い瞳の色。非現実的な美しさと、現実のセーラー服が噛み合っていないのだ。
「ふふっ……Aさんは、可愛いですよね」
「かわいいって、いいこと?」
「……どうなのかな」
Aみたいな美少女に生まれていたら、と考えたことがないではなかった。けれど、それはそれで気苦労が多そうに思えた。周囲と際立ってしまうことが、必ずしも幸せな結果を招くとは限らない。
「でも、今は、いいことですよ。Aさん、本当に奇麗……」
思わず、「私と全然違って」なんてネガティブなことを言いかけて、やめた。そんなことを言っても仕方がない。
「ありがと、ツユコ」
少しだけ、この正体不明な女の子と仲良くなれた気がした。でも、散らかした衣服はきちんと片付けなくてはならない。露子はAにたたみ方を教えて、次々にタンスを元通りにしていった。案の定、教えるとすんなりとやり方を覚えてくれた。




