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常世の国の揚羽蝶  作者: カメコロ
第三章 敷島家の秘密
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過去からの意志

露子と朝日もつばを飲む。Aは表情をちっとも変えないで、その包をじっと見つめていた。

「こ、これは……! 地図!」

 和紙を丁寧に剥がしていくと、中にはまた古びた紙が入っていた。几帳面に折りたたまれていて、広げると、A4くらいの大きさだ。そこには、ボールペンか何かで簡易的な地図が描かれていた。子供が書いたようにどこか拙い。その拙さが何か禍々しい、嫌な気配を漂わせている。山らしき線のうねりと、海と思しき空間があって、山に家が書かれ、その上の方に、黒い丸が描かれている。その丸は何度も何度も筆で塗りつぶされていた。朝日はちょっと怖がっているみたいで、体をその地図から遠ざけようとした。


「どこの地図だろう……?」

 大和が机の上で紙を回してみる。その無軌道な動きを露子が止めた。

「ちょっと見せて、これって敷島君の家じゃないかな。ほら、海があって、その近くに……」

 言われてみれば、そんな気がしてこないでもない。この屋敷の蔵に隠されていたのだから、この近隣の地図だろうという推測は説得力がある。

「じゃあこの黒丸は……」

「うねうね」

 

 大和が言葉を続ける前に、Aが口を開いた。いつも違う、冷たくてぞっとするような、響きがあった。名無しの少女が地図上の黒点に人差し指を静かに乗せた。

「学校の遺跡……なのかな?」

 露子が呟いた。縮尺はかなり大雑把だろうが、方角的には学校方面に見えた。

「お兄ちゃん、気味悪いって! その遺跡って今日見つかったんでしょ? だったらなんでうちの蔵にこんなのがあるの?」

「うーむ、これがいつ、誰に描かれたものかがわかりゃあなぁ」

 

 大和は腕を組んで、考えこんでしまった。朝日は気持ち悪いものを見るように、その地図を眺めた。不思議なことに、見れば見るほどこの周辺だと思えてくる。

「裏は……何か書いてあるよ」

 露子がひっくり返すと、隅っこの方に文字が書き付けてあった。これまた子供が書いたような字で、しかも震えているみたいで読みづらい。

「えっと……『みつけてしまった。誰もあれに近づいてはいけないのに』だって」

「へえ、旧日本軍の隠し財宝か?」

 大和はのんきそうに露子に言った。露子は真剣な表情で、その震える文字を見つめている。


「なんか危なげ……」

 朝日はいつしか隣のAの袖をつかんでいた。Aの方が、やはりあの凪いだような表情だったが、そっと朝日の手に自分の手を重ねた。

「この地図の書き手、何かヤバイもんを見つけちまって、あの遺跡に隠した……ってことか。いや、あそこ自体が危険地域なのかもな。俺らもあのままなら、行方不明者だったからな。だけど、誰も近寄っちゃならねえとか言っといて、地図を残すのは矛盾してるぜ」


「敷島君が同じ立場だったらどうする? 危ないものを見つけちゃって、隠さなきゃいけないって言われたら?」

「俺がそんなの隠すわけないだろ。全部記事にするに決まってるじゃねえか」

「この地図を書いた人もそうだったんじゃないかな。誰かに伝えたかったんだよ、きっと」

 露子の言葉に大和は大いに得心した。威勢よく露子の肩を叩いて、大きく笑った。


「なるほどなぁ! あははっ! 回りくどいことしやがって!」

「お兄ちゃん、これ!」

 慌てたような朝日の声が響いた。Aが箱の中の和紙を取り去って、その底をあらわにしたのだ。そこには、遺跡の文様やAの肩の傷とよく似たものが描かれていた。あの地図と同じ筆記具を使っているように見える。

「やはり、この箱を残したやつは、あの遺跡を知っている! あの文様を写したんだ!」

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