遺跡発見の報せ その2
「西棟の裏山にね、遺跡が見つかったの。横穴……みたいな?」
「遺跡! なんでまた?」
露子が食いついてきた。彼女は歴史にも関心がある方だった。
「運動部の子がね、遊んでて見つけたらしいの。プールの近くって鬱蒼としてるでしょ? そこに隠れてさぼってたんだってえ」
真実も大分落ち着いてきたらしい。走ってきた時にかいた汗をハンカチで拭いながら、長机の一番ドア側の椅子に座り、ニュースに興味を持った後輩二人を眺め回した。
「土器とかでてくるかな? 土偶か埴輪とか……人骨がでてきたりして……」
まんまるな目をきらめかせて、露子は身を乗り出して大和に尋ねた。大和はちょっと気圧されたように身を引いて、露子をなだめ、真実に向き直った。
「古代史の謎! 面白いけど、まずはモノを見て確かめなきゃな。防空壕かもしれねえし。先輩、行きましょう!」
「私は……休むよ。場所は言った通りだから……」
大和は露子と顔を見合わせて、呆れたように笑った。彼の後ろ、本棚の脇のダンボールから、大きなカメ型クッションを取り出して、真実に放り投げた。これは仮眠用のもので、みんなで使っている。元は露子の私物だ。
「先輩! ご苦労さんです! 俺らはちょっと行ってきます! 露子! デジカメ持ってるよな!?」
露子はうなずいて、カバンを手に持った。どんな環境にも耐えられるようにと、防水防塵仕様はバッチリなものを部費とみんなのカンパで購入したのだ。露子は写真が趣味なもので、彼女が預かっている。真実はカメに顔をうずめながら、横目で二人を眺めていた。
「敷島君、乱暴はダメだからね?」
「なんで遺跡の取材で!」
大和が口をとがらせる。彼は取材に関して一方ならぬ情熱がある。それはいいのだが、乱暴なところがあり、入部したての時に取材対象に食ってかかって問題になったことがあった。その時、真実は大人たちにさんざ頭を下げて許しを得たのである。
「露ちゃん……よろしくね」
露子は不安そうに苦笑いを浮かべながら、カバンからデジカメを取り出して、大和に目で合図をした。そうして二人は薄桃色に香るような風を切って、外に飛び出していった。
彼らがいた東棟からプールサイドまでは中庭を横切って行かなくてはならない。その庭には何本もの桜が植えられていて、ひかえめに蕾を風にあずけていた。あと数週間もしないうちに、白みがかった桜色の霞が校内を満たすだろう。