寄木細工の中身は……
「ばーん! がっちゃーん!」
Aはといえば、大和が投げた銅貨をダンボールや壁に叩きつけて遊んでいる。お手玉のように扱おうとして失敗し、重いコインが脳天に直撃してしまう。
「いっ! いたっ! 痛い!」
痛い思いをするのも初めてみたいで、何度も頭をなでさすって、目を潤ませていた。それでも、遊戯は続けている。見かねた朝日に止められるまで、その遊びは続いた。
「おっ!? なんかあるぜ! 最後のお宝か!?」
大和がツボの最奥から引っ張りだしたのは、黒ずんだ桐箱だった。経年変化は甚だしく、煤のようなもので、真っ黒になっている。
「価値のない古銭でカモフラージュしてたのかな?」
露子が興奮気味に大和の手のひらに収まるくらいの箱を食い入るようにのぞきこむ。古銭をとりあっていたAと朝日も、その新発見の方が面白くなって、四人で円を描くようになった。その中央には、謎の箱。
「なあなあ、これってよ、コトリバコだろ、コトリバコ!」
大和がうきうきして幸せそうに叫んで、その男子にしては高く澄んだ声が蔵に響く。
「ええっ? コトリバコって、女の人と子供だけを殺すっていう……」
露子の言うとおり、「コトリバコ」とはネット上の都市伝説で、女子供を殺す呪力をもった箱だ。間引いた子供の指や血などを封入して作る、悪意の詰まったおもちゃ箱である。断絶させたい家に送りつけたり、ひっそりと忍ばせたりすれば、たちどころに女性と子供が内臓をやられて悶絶死するのだ。
「それじゃ、お兄ちゃん以外死んじゃうんじゃないの?」
朝日の言うことももっともだった。朝日も露子も、そしてAも、もんどり打って血反吐を吐くような気配はない。しかし、大和はこの箱に何かを感じていた。そもそも、Aがいきなりこれを取り出してきたのも変だ。目立たないところに、隠すかのように置かれていたのだ。異界の存在である彼女が、何らかの「気」を感じたのかもしれない。とにかく、もっと明るいところでご開帳といくことにした。
「何が出るかな? 何が出るかな?」
大和は食卓に箱を置いて、楽しそうに言った。ついでに模造刀も持ってきて、床に転がす。みんなはさっきそうめんを囲んだように座った。オカルトじみた興味が大和と露子を取り巻いて、ドキドキしながら、その箱につまっている神秘を空想した。財宝でも呪いでも、何でもよかったが、あの文様とAの傷のことがわかればなおよい。
「気持ち悪いものだったらどうしよう。ここで毎日御飯食べるんだよ?」
朝日は兄たちについていけないで、薄気味悪い黒い箱を視界の端で見た。コトリバコには、赤ん坊の血やら内臓、指……とにかくおぞましいものが入っているというではないか。そんなものを食卓に乗っけて平気な神経が理解できなかった。
「霜鳥さん……平気なの?」
「えっ、ああ、あの、平気……です。私もこういうの、好き、だし……」
露子はいきなり話しかけられて、びっくりしてしまった。朝日は怪訝な顔で目の前の露子を見るのだった。
「うん、まあ、お兄ちゃんに無理やりやらされてないっぽくて、よかったです」
「もう開けようぜ」
寄木細工の秘密箱みたいに、変な仕掛けはなくて、すんなりと蓋は外れた。和紙で包まれた何かが入っている。
「お出ましだぜ!」




