お兄ちゃんなのに!
「昔は真剣もあったんだけど、例によって売っちゃたのよね。あっ! そうそう! お兄ちゃんと蔵でケンカした時、ふふっ! 私がこれで思いっきり殴ったら、泣いちゃって! お母さんに怒られた……」
大和にとっては、あまり思い出したくない追憶だった。恥ずかしいのを紛らわすように、刀を振り回して、朝日に突きつけた。
「昔のことたぁいーだろ!」
「よくないよ。きっと霜鳥さんもAちゃんも知りたがるって! 小四だったかな。その時はお兄ちゃんが背高かったけど!」
朝日は女子の中では、昔から割りと背の高い方だったが、中学に入ってからますます発育がよくて、大和はすぐ追いぬかれてしまったのだった。
「ヤマト、ヤマトはおにーちゃんなのに、なんでちっちゃいの?」
Aが無邪気な一撃を加えると、大和は何も言えなくなってしまった。
「あっ? なっ! ああっ!?」
声にならない叫びがこだまして、なんともおかしかった。露子も思わず少し吹き出してしまった。
「露子、お前まで! お前だって! 背低いだろ!」
「まあそうなんだけど……ふふ、敷島君が面白くって。でも私も、幼稚園からずっと、背の順で一番前だったし……」
ひかえめに笑いながら、上目遣いに大和を見つめた。
「はぁ、チビコンビかよ……」
露子は大和が相棒のように思ってくれているのがうれしくて、思わず微笑んでしまった。朝日は手慰みに鉄製の鞘をバットに見立てて遊んでいて、Aは刃先に指を這わせて、金属の感触を心に刻んでいるみたいだ。Aの興味は散漫で、この雑多なモノの洪水に興味を示し始めた。その中から、あるものを選び出して大和たちに持ってきた。
「これなあに!? おもい! 音がする、ジャラジャラ!」
棚の片隅に無造作に放置されていたツボの中に、ジャラジャラと音を立てるものがあった。大和と朝日にも中身がわからなかった。忘れているか、あまりに隅の目立たないところにあったので、気付かなかったのだろう。とりあえずダンボールの上に置いて、中身を改めることにした。
「古銭……だよね。これは五銭白銅貨、明治二十七年って書いてある。こっちはもっと古い……寛永通宝だって。あ、これは最近だね。といっても戦前だけど……」
緑青で覆われた銅の円盤には、確かにそう刻まれていた。寛永通宝や天保通宝は、手に持つとずっしりと重い。
「こういうのって高く売れたりするかな?」
朝日がダンボールの上に置かれたツボをのぞき込んだ。
「モノによるんだろうけど、金になるなら売ってるだろうなぁ」
大和は残念そうにツボから銅貨を取り出しては、ダンボールの上に無造作にぶちまけていった。
「小判でも金貨でもねえかなぁ? ちょっとした小遣いにはなるぜ」
「部室のソフトを買い替えられるかも!」
露子が思い出したように言うと、大和はにっと笑ってそれに答えて見せた。




