泡まみれで
「誰がそんなDV野郎みたいなことするか! 証拠写真だってあるんだ!」
さっきから疑いの眼差ししか向けない妹に対して、有効な証言も証拠も、すべては風呂場にあった。大和はかなり長いこと朝日に冒険譚を語り聞かせてやっていたのに、出てくる気配がない。彼は焦れったい気持ちを抱えて部屋を行ったり来たりしていたが、意を決したように朝日に告げた。
「お前、露子の荷物からカメラ取ってこいよ」
「え……はぁ? 嫌だよそんな荷物漁るなんて! 二人が上がってくるまで待てばいいじゃん!」
「あいつら、何やってるんだ。遅いぞ」
「女の子が二人なんだから、仕方ないよ」
朝日はどうどうと馬を静めるみたいに、諭すかのように言うのだった。
「何言ってやがる。いつもカラスの行水のくせに」
「いーでしょ別に!」
そうして軽口を叩き合いながらも、確かに二人がずっと出てこないのは気になっていた。それで、朝日がちょっと様子を見てくることになった。朝日は決してのぞかないよう兄に念を押して、すたすたと風呂場に向かった。
しばらくして、大和の耳に何か大きな物音が聞こえた。それから何やら悲鳴も聞こえるではないか。捨て置こうかとも思ったが、家をあまり荒らされても困るので、その方に行ってみることにした。
「お前ら、何やってんだ?」
呆れるような光景が広がっていた。広い脱衣所いっぱいに、泡が撒き散らされて、その上に露子、A、朝日の三人の娘が倒れていた。
「し、し、しき、敷島君! み、み、みな……」
露子は全身泡まみれて、同じく生まれたままの姿をしたAの上に乗っかって、濡れてテカテカした背中やお尻を大和の方に向けていた。下のAはうつぶせで、へばったように両手を伸ばして、何がうれしいのか、大和の名前を呼びながら暴れていた。露子は必死に、つるつるすべるAの背中につかまって、人生で一番恥ずかしい気持ちになっていた。顔は真っ赤だし、どうしたらいいかわからないという風だ。二人の女の子の体はなまめかしく踊る。
「朝日! 朝日!」
Aが浴室を飛び出して、それを露子が追いかけて、ちょうど脱衣所に来た朝日と思い切りぶつかったのだ。
「露子一人じゃ荷が重かったか……」
この上なく卑猥な光景だったが、なんだか間抜けな感じがして、素直に喜べなかった。朝日は壁にもたれかかりながら、くらくらしているようだったが、すぐに目を覚ました。
「うう……んあ……あっ、お兄ちゃん……なんでいるの! 出てってよ!」
脱衣所の入り口に突っ立っている兄に、朝日が目を向いて怒鳴りかかった。朝日のシャツも大分濡れて、泡で包まれている。泡の量ならAも負けてはいない。こんな風につるつるになったことはないのか、床に体をこすりつけて遊んでいる。そのたびに上の露子はぐらぐら揺れて、目が回りそうになっていた。
「出てく、出てくよ! その名無しはまだ何もわかってねえんだ! 露子と一緒に洗ってやってくれ!」




