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常世の国の揚羽蝶  作者: カメコロ
第二章 常世の乙女
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死と乙女

「あたしは……気づいたら、ここにいたの。それで、ここしか知らない。人間に出会ったのも、ヤマトとツユコがはじめて。それまでのことは、ぼんやりで……」

「小さな子供の頃から、ずっとここで……?」

 

 露子もこの世界や、この少女のことが気になるのだ。こんな不思議はめったにないし、それを知ることが、元の世界に帰ることにつながるかもしれない。

「うん……おしゃべりも、しらなかった。ヤマトたち会って、それがはじめて。はじめてだらけなの!」

 

 喜びの気持ちを胸いっぱいにしているみたいだった。腕を大きく大和の方に広げて、広いこの世界に、心を開いているのだった。風が吹いて、また銀髪が真っ赤な西日にはためいて、きらきらと輝いた。

「話ならいっくらでも聞いてやるさ! スイカやメロン食うのも初めてか?」

「たぶん……まんまるも、すっぱいも、はじめての気持ち」

「でも何も食べないでいられないですよね?」

「ああ、そうだな。食べずにいたら死んじゃうもんな!」

「死んじゃう……? 死ぬ……?」

 

 言葉の意味がよくわかっていないらしかった。初めて尽くしのお喋りだ。それに異世界の住人ときては、語彙がおかしくても無理はないと、大和たちは思った。

「死ぬ、か。消えちまうんだよ。この世からな。自分だけ、ひとり、どこかに……」

 

 大和の声音には、どこか悲痛なものがあった。露子は不思議そうにAから大和に目をやった。こんな顔を見たことがなかったからだ。

「あたし、あなたたちにあうまで、死んでたんだね」

 

 にっこりと朗らかに微笑みながら、そんなことを言った。死にかけの太陽が、花貌を照らし、柔らかく彼女を包み込んでいた。悲しみも喜びも、すべての感情がせめぎ合って生まれた、凪のような笑みだった。その笑顔と言葉の間に奇妙な齟齬があって、大和たちも一瞬、何も言えなかった。

「ま、こんなとこにたった一人でいりゃ、そーかもな。すると俺らは命の恩人か?」


「うん、いのちのおんじん、だよ」

「じゃあよ、その恩人のために、お役立ち情報の一つもひねり出してくれよ。食いもんはあったろ、あとは……住処と服か? 脱出口でもありゃいいんだが……」

「かべのあるお家はあるよ」

「あんのかよ! それ先に言え!」

 

 しっかりした家があるなら、こんなところに用はない。露子はまだ休みたがっていたが、大和は無理やり立たせて、また歩き出した。泉の対岸の森を抜けた先にあるのだという。川にかかった、小さな丸太橋をよたよたとみんなして渡って、夕焼けに燃え盛る森を進んでいく。


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