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常世の国の揚羽蝶  作者: カメコロ
第二章 常世の乙女
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少女Aからはじめよう

「なまえ、あたしは……!」

「そっか。名無しか。そりゃいい! じゃあ少女Aとでも呼んでおくか」

「少女Aって、そんな犯罪者じゃないんだから……」

 

 露子が責めるように言うと、大和はいきりたって食ってかかる。

「とりあえずなんだからなんだっていいだろ!? イロハのイとかならいいのか!?」

「それもそうだけど……」

「エー? それが、なまえ?」

「名前じゃねえよ。記号だ。ただのな。まあ便宜的に、ってやつだ」

 

 少女は黒曜石のような瞳を大和に向けて、その言葉をじっと聞いていた。かすかな風に真っ白な髪がそよぐ。このつやと輝きといったら、どんな白い花もかなわないだろう。大和でさえそんなことを思った。

「少女A! ここはどこか、わかるか? 日本って知ってるか?」

「…………わからない。ここにずっといた……きがする」

「知らねえ? わからねえ? 犬のおまわりさんか!」

「あの、A……さん。あなたは、ここで、何をしていたんですか?」

「ここに……いた。わたしは何?」

「え! 何……って。あの、女の子?」

 

 露子はなんと言っていいものかわかりかねて、ちょっと間の抜けた返しをしたと自分でも思った。大和は眉をひそめて、要領を得ない会話を聞いていた。

「あたしはおんなのこだった……んだ……それで、にんげんなの? あたしは?」


「人間にしか見えねえけどよ。まあ実は幽霊とか妖精でした! とか言われても驚かねえな」

「人間……わたし……女の子、ヤマトは男の子?」

「まあ、そういうことになるな。露子は女で……。つうかよ、お前いままでどうやって暮らしてたんだ?」

「わからない。でも、ただいたの。ものみたいな、きおく。このいずみも、きのみも、もりも、しってる。でも……」


「思ったよりしゃべれるじゃねえか。なあ露子?」

「……この短い会話の中で学んでいる? のかな? もともとしゃべれるだけかもしれないけど……」

 露子は興味津々といった顔つきで、大和に返した。Aのしなやかで繊細な体、輝く髪に見入って、いろいろと考えている。

「なかなか知能が高いらしいな! ここが何なのかわからねえのは残念だが……まあ、わからねえ同士、仲良くやろうや」


「うん!」

 元気のよい返事だった。どうも悪いものではないらしい。

「まあここにいてもしょうがねえな。地元民? にも出会えたことだし、捜索再開と行こうぜ」

露子はさっき大和にしてもらったみたいに、Aに手を差し伸べた。Aはその行為の意味をきちんと理解していないようで、露子の小さくてふっくらした手に、いきなりかぶりついた。


「きゃっ!」

 か細い声が青い空に響く。大和もびっくりして後ずさりした。露子が彼女を振りほどくと、ピンク色の歯型が手の甲に残った。

「美味しくない!」

「た、食べ物じゃないよぉ……」

「……先が思いやられるぜ」

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