俺氏転生、マジ勘弁。
転生?
何だそれ。
何だよそれ。
つーことはやっぱ死んじゃったってことでしょ。
覚えてますとも、無差別殺人事件に巻き込まれてたよな。
死ぬ前最後に会った奴は誰だったっけ?
家帰って母さんと口げんかした後不貞腐れて外に出たんだったか。
そんで近くのそこそこ賑わってる商店街に行って、事件に巻き込まれて刺されちゃったんだよな。
想えば母さんは女手一つで俺を育ててくれたのに、最後まで俺は親不孝だったわ。
母さんは怒りっぽくて馬鹿みたいに神経質だった。
でも誰よりも俺のことを愛してくれていたのはこんな俺でも分かってた。
俺が死んで母さんは泣いてんだろうな。
母さんは強いけど、弱いところもあったもんな。
俺が死んだことで自分を責めて、立ち直れなくなってなんてないよな。
それを確かめたいけど、確かめる術なんてないんだよな。
雅樹にも悪いことした。
1000円借りてたのに返してねえや。
漫画も何冊も借りたまま返してなかったな。
そんなの俺の部屋漁ってりゃ出てくるだろうけど、それを黙って持っていくようなことしてないだろうしな。
夏休みは一緒に海言ってナンパする約束してたのにな。
ナンパなんて成功するとは思ってなかったけど、お前とやるなら楽しめると思ったのにな。
普段はちょっぴしクールぶってる野郎だから絶対俺のこと好きだとかそういうことなんて言わなかったけど、俺のこと親友だと思ってくれてたんだろ?
俺がエイプリルフールに転校するって嘘ついたとき、涙目になってたのを俺は知ってんだかんな。お前は気づかれてないと思ってるだろうけど。
涙もろいもんな、お前。トトロで号泣してたもんな、実は俺引いてた。
俺の葬式でも号泣してたんだろうな。
お前ってそういう奴だもんな。
死んだ後なんてさ、無いもんだと思ってたよ。
転生するなんてどこぞの小説サイトの設定でしかない思ってた。
なのにまさかなあ。
死んだ後になんでこんなに悩まなきゃいけねえんだよ。
こんなことなら転生なんかしないで天国でのんびり暮らしてたかったっつーの。
異世界転生なんてマジ笑える。
そりゃ「俺異世界に転生したんだ」って自覚した時にゃ心躍ったけどよ。
時間が経てば経つほど前世の記憶が頭から離れなくなってきた。
前世の記憶何てないほうが幸せだって思ったよ。
転生したんだから、当然前世とは違う母さんがいる。
でも俺の中での母さんはあっちにいる母さんなんだ。
こっちにいる母さんは美人で優しくてまさに理想の母親なんだけど、でも俺にとっちゃあのネチネチうるさい中年太りの老けたおばさんが母さんなんだ。
こっちの母さんは優しく大好きよ、と抱きしめてくれる。
あっちの母さんはそんなことはしてくれなかった。
でも、台所で黙々と料理をしている母さんに「俺のこと好き?」と聞いたとき「馬鹿なこといってないで宿題でもしたら?」といった母さんの横顔が少し照れてたそのときのほうが、俺にとっては印象に残ってるんだ。
どっちも母さんのはずなのに、今接しているあの人のことを俺はどうしても母さんだと思えない。
こんな思いはきっとこれから薄れていくだろうけど、今感じている思いはやっぱり本物じゃんか。
それ思うとさ、忘れていくのも苦しいしさ、何ていうかさ、どうしようもなく虚しくなっちゃうんだよな。
苦しくて誰かに言いたくなるけど、やっぱし誰にも言えてない。
特に母さんには言えないな。
俺の正直な気持ちなんて言ったら卒倒しちまいそうだ。
前世の母さんを本当の母さんだと思ってるなんてな。
言えるわけない。
自分の子供が転生してて、しかも前世の記憶を持ってる。
そんなの耐えられんだろうし。
自分の子供のはずなのに自分の子供ではない。
自分の知らないところで、この子の中では自分ではないお母さんがいて、知らない友達を持ってて、知らない彼女を作ってたんだって。
それってさ、想像してるよりずっとつらいことなんだと俺は思うんだよな。
だからこのことは俺の心の中に留めておこうと思うんだ。
この世界の母さんだって母さんなんだって受け入れられるその時まで。
さっきから悪いことしか言ってない気がするけど、まあ転生して幸せだとは思う。
前世2人家族だったのに一気に倍に増えたし。
やっぱ賑やかなもんだな。
新鮮でちょっと恥ずいけど、満たされてる感じすんだよ。
死んでやっぱいろいろ後悔っつーか、やるせなさがどっかあったけど、それでも今生きてて、俺のことを思ってくれる人に出会うことができた。
これ以上のことってないよな。
幼馴染だっているんだ、美少女のお隣さんだぜ。
ちゃんと早起きしなきゃだめよとか、風邪ひいちゃうでしょとか、とにかく俺を構いたがっててウザい。
面倒見のいい幼馴染ですかそうですか。
まあかわいいし、こんな子が彼女ならいいなとは思う。
てかこのままいったら彼女になるでしょ。
逐一こっち見てくるし、頬染めてるし。絶対俺のことすきでしょって感じ。
……幼馴染なら雅樹のがよかったなんて思うけど。
そりゃかわいいけど、そんなのより気が合うお前と馬鹿やってるほうが楽しいなんてな。
まあこんな風に前世のことはまだまだ引きずってくだろうけど、ちょっとずつこの世界を受け入れてこの世界で生きていこうと思う。
でもだからって前世のこと完全に忘れたりなんかしねえよ、するもんか。
だからお前も俺のこと忘れたりすんなよ?
まあ何が言いたかったのかっていうとさ、俺今も昔も超の付く幸せ者だってこと。
話が遠回しすぎるって?
そりゃ悪かった。
でも俺の話聞いて少しは親とか友達のありがたみが分かったんじゃねーの?
どうなんだい、ん?
はは、不貞腐れんなよ。冗談だろ、冗談。
だからお前、もう死のうなんて考えたりすんなよな。
いろいろ大変なことが重なってお前なりに悩んでたんだろうけどさ、
お前があの場にいたなんて知んなかったんだし何も気負う必要ねえって。
しっかしほんと、世界は不思議で溢れてるもんだな。
まさか夢で会うことになろうとは予想だにしてなかったよ。
まったく笑えてくるよな。
な、雅樹。