うた
この手をのばしても
まだまだ君に届かない
この歌を歌っても
君に心が届かない
clarity love うた
はじめて歌と言うものに圧倒された。
この言葉をなんと説明したらいいのか七海にはわからなかった。
ただ最初の曲からカナンに興奮させられ、魅せられていた。
他の演奏者も七海にはギターやら楽器のことは全くわからなかったが、素人にもわかるぐらい凄さを見せつけられていた。
あっという間に2曲ほど終わると演奏もいったんなくなり、MCが始まる。
「どうも!anfangっていいまーす」
ナツルが皆知ってるかにゃー?と言いながら話しだす。
客はまた一層歓声をあげる。
カナンはMCで話す気はさらさらないらしく、少し後ろの方で水を飲みながらMCを聞いている。
「カナンさんはしゃべらないの?」
琴乃にこそっと聞いた。
「うん。なんか一匹狼っていうのかな?歌うだけでほとんど話さないの。それどころかあんまりファンの子たちも見てくれないし。」
まあ、その一匹狼らしいところに皆惹かれるんだけどね!と話してくれた。
「ツアーも最後に近付いてきてさみしーね!けどいろんな個所を回っていろんなファンの子たちを見て僕たちもっと頑張んなきゃなって思ったよ!」
だから頑張るぞー!えいえいおー!とすると観客も一緒にえいえいおーとする。
なんだかナツルさんって思ってた以上に可愛い人だなと七海はくすりと笑う。
「んーとなんだろうなあ。最近僕たちの周りで少しだけ変わったことがあって、それがいいことなのか悪いことなのかよくわからないけど、変化って凄く大事だなって思いました。anfangもこれから少しずついろんな方向へ変化していくと思うけど、変わらずについていってくれたら嬉しいなって思います!」
ついてきてくれた人にはもれなくなっちゃんのストリップショーをおみせしちゃうわよん☆と肩から服をおろしながら付け加えると観客が盛り上がる。
「んじゃ盛り上がったところで次、いきたいとおもいます!『white kiss』!」
カナンも定置に戻り準備が整うと次の曲が始まった。
ライブも盛り上がり観客のテンションも上昇しているが
七海は徐々にカナンの歌い方に違和感を感じ始めていた。
なんか、凄く、つらそう。
別にただ聴いているだけだととてもきれいに、上手に歌っているのだが、心の奥底で何かを叫んでいるような、金切り声をあげていうような感じがした。
歌った後も最初のころに比べ、疲れている様子が見えた。
そこで再びMCが入った。
「どうも、ベースをしてるアマネです。」
アマネさんの声は心を鷲掴みされるように、胸をキュンとさせられる。
女のファンは皆そのようでため息をついていた。
「皆どうしたの?ふふっテンション上がっているのかわからないね」
というと上がってるよーと皆観客がレスポンスを送る。
それにまたもやくすくす笑うと女の子からは黄色い声援が飛ぶ。
「あー皆で遊ぶのは楽しいねえ。ってファンの子たちで遊んだらだめだよね。」
とメンバーに聞くように言うと
「駄目に決まってるじゃん!ばかあまねー!」
きゃはは!と笑いながらナツルが言う。
「どSが。あとで泣き見るぞ。皆も言ってやってくれ」
リョウがハッと笑いながら言うと観客からは駄目ーだの、もっとしてーだの返ってくる。
「全く、君たちはどっちなんだい。けどんーそうだなあ。やはりファンは大事にしなきゃいけないなって思ったよ。」
うんうんと自慢の長い前髪を振りながら納得するように言うと観客からはなんでー??と問いが出てくる。
「先日うちのカナンくんが俺たちのことを全く知らない子とあったそうなんだよ。」
くすくす笑いながら話しだす。観客からは驚きの声が上がっていた。
七海のの肩が驚いたようにびくっと上がる。
カナンはと言うとサングラスで見えていないが、アマネのことを睨んでいるようだった。
「えー!そんな子いるの?モグリ???」
琴乃も驚いていた。その言葉を隣で冷や汗をかきながら七海は聞いていた。
「うぬぼれていたっていうのかなあ?知らない子は知らないんだなって思ったよ。だからね、思ったんだよ。皆の顔ちゃんと見て演奏しようって」
だから少し今日照明明るいでしょ?と照明を見上げる。
そして前の方へ来てファンの子たちを見渡す。観客は私を見てー!!!と言わんばかりに手を振り声を上げる。
「うんうん。見えるよ。皆きれいだねえ。」
「えーほんとー??」
ナツルも観客近くまで寄っていく。ますます観客が盛り上がる。
「ほんとだー!リョウもカナンもおいでよー!皆すっごい見えるー!」
見えてるよ~と手を振りながら観客にレスポンスする。
リョウもやれやれと思いながらスティックを置くとまたもや座って水を飲んでいたカナンにも観客を見に行こうと促す。しかし、カナンは一向に立つ気配はない。
何を思ったかリョウがカナンになにか耳元で話すと、カナンは一瞬考えしぶしぶ立ち上がる。
観客もまさかカナンまでも近付いてくれると思ってなかったらしく驚く。
「うそっカナンまで近づいてくれるの!?なんなの今日のライブ!どうしよう!!」
琴乃はテンションマックスでサイリウムを振る。
七海も久しぶりにカナンの顔を生で見れると思うと少し緊張し戸惑う。
カナンとリョウが徐々にこちらに近づいてくる。
見ているとカナンは本当に苦しそうに眉をひそめていた。
意を決したようにカナンは少しだけ観客の方をきょろきょろと見渡す。
観客たちはさらに叫ぶように声を上げる。
そして七海たちの方を向いた。
あ、
まわりの声は一切聞こえず、お互いの時が一瞬止まったように思えた。
サングラスで見えないが目が目の奥が七海を見つめているようだった。
カナンはそこから全く動かず、七海の方をじっと見つめているのにリョウが気づき、カナン、どうした??と聞いているがカナンは全く聞こえていないようだった。
七海の周りの席の客はまるで自分を見てくれていると思っているのかさらに手を高くあげカナンー!!!と叫んでいる。
七海も何か伝えなければと「カナンさん!」と叫んだ。
カナンさん、あのね、最近音楽番組見るようになったんです!
美羽と瑠唯が一生懸命カナンさんを応援しているんです。
だから、だからそんなつらそうな顔しないで!
伝えたいのに伝えられない。けれどその叫んだ言葉にすべてを託す。
すると、通じたのか、カナンが綺麗な笑顔を返してくれた。
カナンはファンの前で一度も笑顔を見せたことがない。
今日一番のファンの絶叫はこの笑顔があまりにも綺麗すぎることに対して叫ばれたものだった。
それからのカナンは何が吹っ切れたのかかなり落ち着いて歌っていた。
それをみて七海もほっとしながら聞く。
最後のMCではリョウが担当だった。
「まだまだな俺たちだけれど、これからもっと成長していく。それはもちろんバンドをしているものとしてっていうのもあるんだけど、男として成長していきたいって思ってる。だから、お前ら乗り遅れんなよ!」
というと観客がおー!!!!と返事をする。
するとドラムが始まり疾走感のある曲が始まった。
その曲はあっという間に終わり、メンバーがすぐにはけて行った。
七海はもう終わったのだと思って感動一入に
「よかったね」
と琴乃に話しかけると
「何言ってんの!まだアンコールがあるのよ!」
とアンコールを求めるコールを始めた。
なるほど、知らなかった!アンコールなどあるのか。ライブは奥深いなあ。と七海も一緒にコールを始めた。
なかなか出てこず、アンコールがないのか?と思っていると、メンバーがツアーグッズのTシャツを着て登場してきた。
歓声をあげているとカナンがマイクに向かって話し始めた。
「…ヴォーカルのカナンです。」
まさかカナンが話すと思ってもいなかった観客にどよめきが起こる。しかし徐々にカナンコールが沸き起こる。
「うっそお…カナンが話すところとかひっさびさに見た。」
琴乃が横で驚きながら言う。
「あまり話さないの?」
「うん。テレビでも全く話さないし、ライブでなんてもっての外。でもまさかアンコールに喋るなんて…」
「えっと、…アンコールありがとう」
ぼそぼそと呟くようにカナンが話を続ける。
観客からは拍手が起こる。
「あー…うーん…」
なかなか話せないのを見越してナツルがフォローを入れる。
「なんかやっぱ皆見てありがとうって伝えたかったんだって。ねー、かなーん☆」
ウィンクをしながらカナンの方を向くとカナンがナツルの方を向いて睨んでいた。
改めて前を向くと話を続ける。
「俺には歌しかないから、歌うことでしか返せない。もらった気持ちに返せるに値するかわからないけど、聞いて欲しい。『13番目の祈り』」
そしてアンコールが始まった。
瞳を見て何を感じる?
心の中まで見透かされる。
漆黒の闇が迎え入れる。
ああ、なんて退屈な世界。
ああ、なんてモノクロな世界。
もしこの天と地が変わったら
生まれ変われるだろうか
もしこの祈りをささげたなら
天使になれるだろうか
「もーさいっこー!」
琴乃は満足したようにずっと同じようなことを言っていた。
「うん。最後の曲よかったね。『13番目の祈り』だっけ?」
「あれはカナンの曲で一番人気のある曲。最後にあれ持ってくるあたりanfangも流石だなって思うわ~」
話しながらお互いの感想を言い合う。
七海は本当に今日来てよかったと思った。それと共に今日終わってしまった寂しさがつのる。
私はちゃんと会えたんだ。それで十分じゃない。
双子たちに申し訳ないよ。
自分を叱責し、この感想をどうあの双子に言い表そうか悩んでいた。
「あっいたいた!!!!」
ドームを出る直前で後ろから肩を掴まれる。
突然誰かと後ろを向く。琴乃も「どうしたの?」と一緒に立ち止まる。
そこにはカナンの世話をしている人と紹介された雅が立っていた。
やっっと書けました。
臨場感もくそもない文章になってしまい申し訳ないです。