愛しさ
いろいろ暴力とか血とかでるので気をつけてください。
もう僕は君を
失いたくないんだ
きみが砂のように流れ落ちるのを
見たくないんだ
clarity love 愛しさ
大阪の2日目の夜、七海は家でそわそわしていた。
大阪公演の終わった後翌日にはすぐ別の仕事が入ってるからと打ち上げもせずすぐ帰ってくると言っていたからだった。
『その、お土産渡したいから、七海の家に寄っていいか?』
とても緊張した声で尋ねられ思わず微笑みながらはい、と答えた。
双子たちも楽しみにしていたが、楽しみすぎて体力を使い果たしのかリビングでそのまま寝てしまっていた。
楽しみにしていた二人にも悪いと、もし香南がきたら起こそうとブランケットだけ持ってきてそのまま寝かせてある状態だった。
早く、帰ってこないかな
入れたお茶をすすりながら内容の入らないテレビをひたすらぼっとみていた。
ピンポーン
それからしばらくたちチャイムが鳴った。
香南さんだ、と嬉しそうに玄関に向かう。
ドアを開けるといつかライブで七海を睨んでいた女の人が包丁を持って立っていた。
「っ・・・」
声が出ない。体も動いてくれなかった。
「・・・あんたがいなければ、私が選ばれたのよ」
円のぶつぶつ話していたのが少しずつ声が大きくなっていく。
「せっかく見つけた、私の理想の人、一番近くにいて、けどなんどなんど、話しかけても嫌がられて、ようやく話してくれるようになったと思ったら、近くにあんたがいて」
「そ・・・れは、」
「調べてみてたわよ。何度香南さんがこの家に入るのを見たことか。さっさと消えてくれたらよかったのに、あれだけやってもあんたは消えなくて。」
七海ははっとする。
もしかして、あの週刊誌のネタは彼女が送ったものではないのか…?
「あ、あなたが、週刊誌に…?」
「うるさい!!!一番手っ取り早く香南さんをあんたから救ってあげれる唯一の方法だったのよ。香南さんは感謝することはあるとしても非難されるようなことはないわ!!!」
「けど、」
「それが今度は移籍!?私からどうして離れていくの!!あんたがいなければ香南さんと幸せを掴むはずだったのに」
七海はドンと包丁を持っていないてで前に押される。
そして気づいたら押し倒されていた。
円の包丁を握る手が震えていた。
「あの、落ち着いて、」
「ふふっ」
そして彼女の顔からはふと笑みがこぼれていた。
「あんたがいなければ、私は、香南さんと幸せになれる。そうよ、幸せになれるのよ!!」
包丁がふりあげられる。
七海にはスローモーションに見えていた。
そして心の奥で自分はこれで終わりなのかと思った。
それでも頭は彼のことでいっぱいで、
かなん、さん
涙が一片落ちていく。
「七海!!!!!」
突然呼ばれ七海も円も驚く。
けど本能でわかる。
この声は、
この声で円は一瞬止まる。
そのすきを狙って香南は二人の間にはいる。
その瞬間に包丁がおろされた。
「か、かな、さ、・・・?」
「きっきゃああああ!!」
円がふと我に返ったようで大声で叫んでいた。
七海は目の前が見えていないため何も分からなかった。
香南が七海を抱きしめるようにかぶさっていたのだ。
どうしたの?何が起こったの?何も分からない。
すると後ろの方から雅の声が聞こえてきた。
「おい、なにして、香南!!!!大丈夫か!!!おい、夏流!!!救急車!!!!」
何?キュウキュウシャ?なんで?
わけもわからずふと香南の腕に手を当てる。
液体がどくどくと流れ出ているのがわかった。
え?なに?すると少しだけ香南が動き始めた。
「ななみ、けが、は?」
その声はとても苦しそうだった。
とたん、手が震え始めるのがわかった。
「だいじょう、ぶ」
「よかった。お前を守ることが、できた。」
香南は七海に笑顔で答える。すると近くに雅がやってくる。
「香南、大丈夫か!?今起こすぞ、」
ようやく目の前を見ることができた。そしてようやく状況を把握することができた。
円は燎と周に抑えられていた。円の顔は放心状態でどこも写していないようだった。
香南の腕に、包丁が刺さっていた。
そこからの出血が予想以上で血も止まることを知らないようにどくどくとあふれ出ていた。
「かな、さ、」
「大丈夫だ、泣くな。」
顔色が悪くなっているのがわかる香南だったが七海を心配させまいとしているのが良くわかった。
「香南!今救急車呼んだからな!ななちゃん、タオル部屋から借りるな。」
夏流が励ましながらも家へ入っていく。
いやだ、これってまるで、
徐々に香南の意識がもうろうとしてきた頃ようやく救急車が到着した。
すぐさま救急車に乗りついていく。
「出血がひどい。酷過ぎる。」
救急隊員はすぐさま香南に人工呼吸器をつけた。
ピッピッと言う音が鳴っているがたまにゆっくりになる時もある。
「かなん、さ」
指された方と逆の手を握りながら七海はつぶやく。
すると香南は目をうっすらと開ける。
「なな、み」
少しだけ絡み合った手の力が強まったような気がした。
「香南さん、駄目ですよ?だって私はまだ、伝えてないんですよ?」
ぐすっぐすっと泣きながらつぶやく。
「私、香南さんのこと、好きなんですよ?」
絡み合った手にキスを送る。
「好き、なんです」
香南の顔は一瞬止まったように動かなくなった。
しかし途端に笑顔になった。
手の力がさらに強まった。




