矛盾
この小さな溝
信じてもいいの?
伝えてもいいの?
clarity love 矛盾
「ふたごちゃああああああん!!!」
夏流が双子を抱きしめる。
ほぼ3カ月ぶりの再会であった。
事件や仕事のこともあり、七海と双子は香南以外のメンバーとは会っていなかった。
お仕事が少し落ち着いたこともあり、メンバーは七海達を前打ち上げに使った日本料理店に招待した。
「なつにーちゃんいたいにゃー」
「いた・・・い」
そう言いながらも双子はとても嬉しそうだった。
「はい。久しぶりだからね。お土産を持ってきたよ。」
周は懐からお菓子を出す。よく見ると仮面Xマンのお菓子だった。
「あまにーちゃん!かめんえっくすまん!」
「ちゃんとありがとうは?」
一生懸命お菓子を預かると双子は一緒にありがとーと言う。
「本当にありがとございます!明日のおやつにしようと思います。」
「いえいえ。これだけ喜んでくれたら本望だよ。」
「そうだな。よし、次は俺だ!来い!二人とも」
「「りょーにーちゃん!」」
わーと言いながら双子は燎のところへ駆け出す。
「おい、こけるなよ」
それを心配そうに後ろから香南がみている。
「大丈夫だって。うおおおお前ら力強いな」
ははっと笑いながら燎は二人を抱きしめる。
そして二人を肩にのせる。二人は驚きながらも興奮しながら乗っていた。
さらに後ろからおろおろしながら香南が監視していた。
「お、おい、燎お前」
「大丈夫大丈夫!っていたたたた!!」
「こらっ美羽!!!」
肩車され興奮した美羽が燎の髪の毛を引っ張りだした。するとバランスを崩しそうになり危うく二人を落としそうになった。
香南はすぐさま二人を肩からおろす。
「・・・」
「わ、悪かったよ、香南。双子も、悪かったな」
燎は二人の頭を撫でると双子はとても寂しそうな顔をする。
「たかいたかいもうおわり?」
「おわり?」
まるで捨てられた子犬のような顔で言うので燎もどうにかしてやりたくなる。
「一人ずつなら、またしてやっからな!心配すんな!」
「「やった」」
二人にも笑顔が戻り、部屋の中を駆け出し始めた。
それに香南が必死についていている。
「ななちゃん、改めて結婚おめでと。」
いつの間にか七海の隣にいた夏流が呟く。
「あ、ありがとうございます。けどまだ。」
「うん。それは、僕たちのせいだから。ごめんね、長引かせて。」
「いいえ。私の方こそ、」
結婚の日にちに関して七海も香南と話していた。
そして事務所の方でもめていることを聞いていた。
もちろん七海は結婚自体を取りやめることを勧めた。
七海とて迷惑をかけてまで結婚をしたくないのだ。
しかし、香南がこれでもかと言うほどそれ自体に反対した。
『七海は、俺の気持ちを汲んでくれないのか?』
若干の上目使い。卑怯だ。あまりにも卑怯すぎる。
結局顔を真っ赤にしたまま七海は首を縦に頷くしかなかったのだ。
「それよりも大丈夫なんでしょうか?私、」
「大丈夫。僕たちも思うところがあったからね。今大改革中だよ。人は変化していかないとね。」
夏流がクスッと笑いながら言う。
「それよりも問題はお前だよ、七海。」
逆の隣から燎が話し出す。
「お前、その、香南の気持ち知ってるんだよな…?」
「えっ」
思わず七海が顔を真っ赤にする。周が可愛いねえ、とちゃちゃを入れる。
「え、ええ。」
「じゃあ、お前の気持ち、香南知ってるのか?」
「え?」
思いもよらない質問に思わず目を見開く。
「えっと、多分知ってると」
「多分?」
「え、ええ。だってそうでないと結婚するとは言ってくださらない…ですよね?」
燎の方を見ながらさも普通のことのように言う。
そう、普通はそうのはずなのだ。
しかし、彼は違う。
思わず燎はため息をついた。周は苦笑している。
七海が慌て始めた。
「あの、私…」
「七海、頼む。気持ちが落ち着いてからでいい。自分の気持ちはっきりと言ってやってくれ。香南お前の気持ちにちっとも気づいてない。」
「え?」
さらに驚いたように固まる。
「愛を知らないからかな。あいつ人の気持ちに気づくのも相当鈍いんだよ。愛と言う気持ちには特にな。」
「ゆっくりでいいから、七海ちゃんも伝えてあげて。」
お願い、と周が七海に迫り始めた。
「ちょっ周ッ」
夏流が止めようとすると後ろから周がはがされた。
「お前、何やってんだよ、」
そこにはとてもご立腹な香南が立っていた。
「いやーん、香南くん怖ーい」
「あの、私は大丈夫なので、離してあげてください」
七海の説得が功を奏したのか香南はしぶしぶ離した。
「「あー!!どんぐりさん!」」
秋だからか畳床には紅葉の葉やどんぐり、松ぼっくりが置いてあった。
双子の声に誘われるようにメンバーや香南たちは双子のもとへ向かう。
気持ちを、伝える
七海にとって今更とも思える行為に顔を真っ赤にする。
それと同時に自分の気持ちが香南に伝わっていなかったショックが残っていた。
11月下旬アルバムが完成しようやくCDショップへ並ぶこととなった。
12月から始まるツアーのための練習もあったがとりあえず一息ついたのだ。
「おつかれさま。曲皆よかったよ。売上今週1位だって」
雅が笑顔で答える。
メンバーもほっとしたように息を抜く。
「まあ、七海と琴乃のお墨付きだったからな。」
事前に完成したものを七海と琴乃に聴いてもらっていた。
七海は素人ながらの感想だったが琴乃感想は大層凄かった。
初期から聴いてくれていたのだろう。雰囲気をちゃんと分かってくれていた。
もちろん、香南にとっては七海の感想が一番であり唯一のためあまり気にしていなかった。
「で、皆にご褒美。っていうよりもまた試練だよね。」
雅が苦笑しながら言う。
「なになに?」
夏流が興味深そうに顔を前に出しながら尋ねる。
「とある会社が条件付きで入ってくれてもと言ってくれた。」
「え?」
「おい、それって。」
突然のことにメンバーが雅をマジマジと見る。
「大手のネクストが新たにレーベルを作るらしい。それなら入れると言ってくれた。」
ネクストとは日本で一位、二位を争うレーベル会社だった。
「すげえじゃんそれ!」
「ただし、」
突然雅が真剣な顔をする。
「入ってすぐ、ミニアルバムを発売して、それが1週間以内に100万枚売れなかったらすぐさま辞めさせるって」
「い、1週間で100万枚…?」
「まあ様子見だろうね。あそこの社長面白いこと好きだから。」
苦笑しながら雅が答える。
メンバーは茫然としていた。
「100万…俺らとったことあったっけ…」
「うーん初動ではないかもねえ」
「・・・けど、やるしかねえんだろ?」
香南が前を見据える。
「俺にやらせてくれないか?どうしても、書きたいものがあるんだ。」
その目は真剣でいつもにないものを感じた。
「香南…」
「お前、できるのか?」
心配そうにメンバーが見つめる。
「ああ。やる。やらなきゃいけねえんだろ?」
その心は静かに燃えていた。
番外編にミニ小説みたいなの載せました。
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