邂逅
だから僕は
あきらめない
clarity love 邂逅
「かなん、さん」
「・・・」
香南の足は止まることなく手は七海の手を握ったままだった。
「かなんさん!!」
「・・・」
何度呼びかけても返事がない。
手を離したいけれど握られた手が強く離すことが出来ない。
息が切れ始めてきた頃、公園に着いた。
お互いに息を切らし、香南はようやく七海の手を離した。
別れを告げてから初めて香南をまっすぐ見つめた。
その姿は前見たときよりも細くなっているように思えた。
何より顔色がとても悪い。
「今日は、その、どうして?」
ようやく息を整えると七海がたずねる。
香南はまっすぐ七海を見据えいた。
「柳田琴乃から聞いた。」
「琴乃・・・から・・・?」
琴乃からは何一つ聞いていなかった。
そして香南が女の子とも話すことが出来ている事実に嬉しい気持ちと悲しい気持ちが入り混じった感情が渦巻いていた。
「こ、琴乃と会ったんですね。変なこといってませんでしたか?」
「・・・」
「あんな子だけれど私にとってはとても大切な親友なんです。迷惑をかけたなら―」
七海は突然香南に抱きしめられた。
「えっ?かなん、さ・・・?」
「七海、」
「その、私、だめ」
「七海」
七海と呼ぶほど抱きしめる力が強くなる。
七海は必死に香南の腕から出ようとするが、力が強く出ることが出来なかった。
「かなんさん!!!」
七海は意を決し大声で叫ぶと香南が耳元でつぶやいた。
「俺を利用しろ、七海」
「え?」
わけがわからないと七海はぽかんと口を開け呆然となる。
香南が抱きしめるのをやめ七海の両肩に手を置く。
「七海、俺を、利用するんだ」
「な、なにを」
「柳田琴乃から話は聞いた。それで考えて、俺が出来ることと言えばこれしかねえって思った・・・」
そして香南が七海をまっすぐ見据える。
「七海、結婚しよう」
その言葉に七海は目を大きく開ける。
「お前がくれた愛は俺を大きく変えた。俺の、全てを変えたんだ。」
「・・・」
「その恩に報いたいんだ。就職なんかしなくても、結婚したらお金もなにもかも共有財産になる。離婚することになったら、その全てはお前に譲る。それで七海が助かるなら俺は全部お前にやる。」
「かなんさ、」
「俺が、お前に出来ることと言えばこんなことしか出来ねえけど、それでも、お前を助けたいんだ。守りたいんだ。お前に好きな人が出来るまで、結婚したい人が出来るまで、俺に見守らせてくれ。」
香南が話し終えるが七海は一向に声が出なかった。
結婚・・・?
「結婚って、香南さんはこれからたくさんの人と出会うんですよ!?私との出会いはその最初にすぎません!!それに私には、双子がいます!!守らなければならないものもたくさんある!戦わなければならないこともたくさんあるんです!!あなたに迷惑はかけられない!!」
七海はいつの間にか涙が出ていた。
その顔に香南は一瞬表情を暗くするが七海に決意ある顔を向ける。
「双子のことも、お前の守りたいもの全て守る。戦わなければならないものには一緒に戦う。頼りないけれど、俺は、その決意があるんだ。それに、」
香南が七海の涙をぬぐう。
「これだけは言える。七海以上の最高の相手なんて存在しない。俺には、七海だけだ。」
とっさに七海が一歩引く。
「だめ、だめなんです。わたしなんか・・・」
「七海!!」
再び香南が七海を抱きしめる。
「俺のことは何も考えなくていいんだ。お前が困っているかだけ、答えてくれ。そしたら俺は、お前を守れる。」
この言葉に七海は再び涙があふれる。
「かなんさ、」
「ん?」
香南が優しく七海の頭をなでる。
「私で、いいんですか?私なんかで・・・」
香南の顔を見ると香南は微笑んだ。
「なんかじゃない。七海、お前がいいんだ。」
その声があまりにも優しくて、あまりにも暖かかくて、七海は香南に抱きつき声を上げ泣いた。
「香南さんっわたしっ私!!」
まるで今までの辛さを一気に吐き出すように今まで上げたことのない声で。
香南はずっと七海の頭をなでていた。
家に帰ると、親戚一同はまだ残っていた。
「「ななちゃ!!おにいちゃん!!」」
双子が香南と七海を見つけると大泣きしながら寄り添ってきた。
「わりい。お前ら置いて行ったりして。」
香南が二人の頭をなでる。二人はブンブンと首を横に振るがずっと頭を香南の服に押さえつけたままだった。
必死になだめているとおばさんが向かってきた。
「あんた、突然どこ行ってたのよ!!!法事はまだ終わってないんだからね」
「すみません・・・」
「七海、」
香南が七海の手を強く握る。
「突然申し訳ありませんでした。」
香南は腰を折る。
「あなたは先日の・・・噂は本当だったの?」
芸能人とわかったおばさんはまるで媚を売るように声を変える。
「その件に関してはご迷惑をおかけしました。そしてもう一つ報告があります。」
「あら、なにかしら?」
香南の手が震えていた。女と話せるようになったといっても、まだまだなのだ。
しかし負けてられないと目の前のおばさんを見据える。
「七海さんと、結婚させてください。」
その目は戦う獅子の目をしていた。




