決別
さよならを言おう
それは新たな始まり
新たな旅立ち
clarity love 決別
香南はがむしゃらに仕事をした。
雅からは七海への連絡さえも禁止されていた。
余計に頭の中を占めるのは七海の事。
だから仕事をして気を紛らわせるしかなかった。
「香南、ちょっと休もうよ。」
夏流が心配しながら言葉を発する。
しかし香南は首を横に振る。
「ここが、できたら休憩する。」
「そう言ってずっと仕事してるじゃん。たまには休まないと、本当に倒れるよ?」
そう言っても首を横に振るのをやめなかった。
その時ちょうど雅が部屋の入ってきた。
香南は黙々と仕事を続けていた。
「香南、七海ちゃんと会える日取ったから。」
その言葉に香南はバッと顔をあげる。
雅は苦笑すると詳細を伝える。
香南はほっとしたような顔をする。
「香南、仕事もいいけどちゃんと体調管理しろよ。」
「…ああ」
そういうと立ち上がりスタジオの外へ出て行った。
雅はドアのしまる音が聞こえるとため息をついた。その顔は険しかった。
「雅さん?」
不審に思った夏流は雅に問いかける。
すると雅は悔しそうに舌打ちをした。
「七海ちゃん、あの子はたぶん。もう。」
わけがわからないと不思議そうな顔をする。
しかし、周と燎は気づいたらしく、ため息をつく。
辛いな
お互い向き合うと苦笑いをした。
騒動が起こって2週間後香南は事務所が持っている建物の中に連れて行かれた。
ようやく、ようやく会える。
香南はこの時が待ち遠しかった。
伝えたいことはたくさんある。
けどまずはぎゅっと抱きしめたい。
彼女のオーラに包まれたい。
だからだろうか、雅がいつもよりよそよそしいのに気付かなかった。
ドアを開けると七海が優しそうな笑顔を浮かべ立っていた。
その姿は以前会った時よりもやせ細って見えた。
「七海」
「香南さん」
声をかけると儚げに笑う。
その表情に今回の自分の配慮のなさの引き起こしたことが浮かんだ気がした。
香南は七海の前へ進むと腰を折った。
「七海、すまなかった。」
「香南さ―」
「ごめん。七海、本当に、ごめんなさい。」
いくら後悔してもし足りない。
「そんな、顔をあげてください。私も悪かったんです。」
必死に七海が説得するがなかなか香南は顔をあげなかった。
どうしたものかと七海が香南の肩に触れる。
「今回は、しょうがなかったんです。いつか、きっと起こりうる事態でした。だから、顔をあげてください」
ようやく香南が顔をあげる。
七海はほっとする。しかしその顔は儚い笑顔のままだった。
「七海、聞いてくれ。俺は」
香南は決意を述べようとした。しかし、七海の人差し指によってさえぎられた。
「言っては、駄目です。」
「なな、み?」
「それ以上、言ってはいけないんです。私は今日お別れを言いに来ました。」
わかれ?
何を言っているんだ?
香南が驚いていると七海から香南があげた携帯が差し出された。
「今日、これで最後です。私は、これ以上会うことができません。二度と、このようなことがあってはならないから」
「なな、」
「私、とても楽しかったんです。とても、嬉しかった。双子も、あんなに嬉しそうに人と接するところ初めて見ました。」
その笑顔はとても嬉しそうで。
しかし突然眉をひそめた。
「けど、駄目なんです。もう。」
七海は香南を正面から見据える。
「大切なものを守りたい。だから、もうこれ以上会うことは許されないんです。」
そして持っていた携帯を香南に握らせるとドアの方へ向かう。
「七海っ!!!」
香南が七海の腕を掴もうとすると七海が涙を浮かべ笑っていた。
すると七海の口もとから何かを呟かれる。
「 」
何もかもわからないまま、ドアは静かに閉められた。
掌の携帯を見る。
良く見ると震えていた。否、自分の手が震えていた。
別れる?
なぜ?
おれは、おれは
「…っはっ」
途端に吐き気が止まらなかった。
息もし辛い。
手から携帯が滑りおち、自分も体を支えられず倒れる。
徐々に目もかすれてくる。何も見えなくなる。
七海
自分が一番手に入れたいものは、どうして手に入らないのだろうか。




