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clarity love  作者: 朱希
33/50

忍耐

欲望に飲み込まれたならば






求め続けなければならない






何を?






光を








clarity love 忍耐








震える手を叱責しなんとか携帯を手に取る。

その間ずっと雅は話していたようだった。

『大丈夫か!?』

「…ああ、」

答えるものの、その声は震えていた。

『とりあえず七海ちゃんたちにはホテルに移動してもらった。一週間ぐらいそこで暮らしてもらう。』

「…」

『今からお前も迎えに行くから、お前もしばらくホテルにいろ。もちろん七海ちゃんたちとは別のホテルだぞ』

「っ…ああ」

『…辛いのはお前だけじゃねえんだぞ。七海ちゃんたちの方がもっと辛いんだ。耐えるんだぞ。いいな。』

「…わかってる」

少し意思のある声を出すと雅も安心したのか少し優しい声で話す。

『じゃあまたあとで』

ぶちと切れると香南は一気に脱力する。

そして意を決したように七海の携帯に電話をかける。



七海、



心の中で必死に呼び続けるが何度電話をかけても通話中であった。

心配は募るばかり。心の中で名前を呼び続けるしかなかった。










『よかったー本当に』

「ご、ごめんね」

七海は電話の相手、琴乃に何度も謝る。

ホテルにきて翌日、テレビを見た琴乃が電話をかけてきた。

かけてきた当初はそれすごい剣幕の声だったが七海の無事そうな声を聞くと安堵したのか普通に戻っていた。

『学校どうするの?もうすぐ始まっちゃうけど』

「あー…」

明日で夏休みも終わり。明後日からは学校へ行かなければならない。

「一応ね、雅さんが送り迎えしてくれるらしいのだけれど、最悪の場合休むかもしれない。あ、けど一週間ぐらいだって言ってたし、うん、大丈夫。」

『…そっか』

琴乃が少し時間をおいて答える。

『もし、なんかあったらすぐに言うんだよ?学校の事は私が毎日連絡するし、気にしないで』

「うん、ありがとう。」

『いえいえ。大事な親友のためですもの!』

「ふふっ」

元気良く叫ぶことのに思わず笑みがこぼれる。

『けど、おばさんには伝えとかなくていいの?』

これだけテレビで放送されたのだ。おばさんが気付かないわけがない。

『もしかしたら自宅の電話にかけてきてるかもよ?』

「うん…あとから、かけようと思ってた」

本当は携帯の番号も知られたくなかったが仕方がない。

憂鬱な心に鞭を打ち電話をかけなければいけないと思っていたのだ。

『…七海、私やっぱり行くわ。』

「えっ!?」

『どこのホテル?早く教えて。』

「けど琴乃夏休み最後だし、宿題とか勉強とか…」

『そんなの七海と一緒にしたらいいじゃん!はやく!教えな!』

「うっ…」

琴乃の勢いが凄く思わずホテル名と部屋番号を言ってしまう。

『待ってなよ!お土産持ってくし!』

ぶちっと切られる。琴乃の行動は常に早いのだ。









雅が香南の家へやってくると人はそこまでいないが、それでもカメラマンのような人が貼っているのに気がついた。


あいつ、良く気づかなかったな。それほど集中していたのか?


香南が七海たちと31日ネズミーランドへ行くのを知っていた。

だから31日までにはどうしても終わらせたかったのだろう。

それがこんな結果になってしまうとは、雅も露にも思わなかった。

香南の部屋の前つきチャイムを鳴らすと飛び出すように香南が出てきた。

「雅、さん」

「とりあえず中に入れてくれ。」

ドアを閉める。玄関のそばには旅行バックが置いてあり、すでに出かける準備は整っていた。

しかし、香南の手は震えていた。

「七海の、携帯につながらなくて、」

「七海ちゃんは無事だから大丈夫だ。きっと、琴乃ちゃんとかに連絡をつけなければならなかったんだろう。後から様子を見に行くし。」

「おれも、」

バッと顔をあげて香南が言う。しかし雅の顔が一段と怖くなった。

「何を言ってるんだ。どうして七海ちゃんがこうなったか考えろ。残念だけど、しばらく七海ちゃんとは会えないからな。いいな?」

途端に香南が罰のわるそうな顔をする。

雅は香南の頭を撫でる。

「我慢だぞ、香南」

香南はコクリと頷いた。








琴乃が来る前におばさんに電話をしないと。七海は焦った。

琴乃は七海がおばさんに電話をかけるところをしっかりと見、七海が少しでも弱気な顔をし始めると電話を奪ってでも喧嘩を始めるのが目に見えていた。

だからここは穏便に、少しでも心配させないように電話を終えなければならない。

双子には二人で遊んでいるように指示をし、もう一つの部屋である寝室へ向かいおばさんの家の電話番号を押す。

通話ボタンを押すとおばさんはすぐ出た。

『もしもし?』

「もしもし、あの、七海です。」

一瞬お互い何も言わない時間が起こる。しかし次の瞬間おばさんはマシンガンのように話しだす。

『あなた!いったい何してるの!?何度も電話してたところなのよ!?』

「す、すいません」

『突然テレビにあなたの家が出るから何事かと思ったわよ!!!どうなっているの!?芸能人うちに入れたりして何をしてるのよ!!』

「その、」

おばさんの止まらないおしゃべりに七海はただただ焦るしかできなかった。

このまま止まらないのかと思えば、おばさんは突然笑い出した。

『まあいいわ。よくやったじゃないの。芸能人をたぶらかすなんて』

その言葉に七海は目を見開く。

「たぶらかすなんて、そんな!」

『けれど、事実でしょう?』

「ちがっ!!」

そしておばさんは再びくすくす笑い出す。

『いいじゃない。子供でも孕ませて結婚したら、あなたすぐお金はいるじゃないの。これを口実に相手に迫りなさいよ。』

高笑いをしながらおばさんが話す。

七海は手が震えだすのを感じていた。


おばさんへの怒り。そして香南をおばさんに利用される恐怖。


様々な感情が渦巻いていた。

『いいわね?ちんたらお金稼ぐよりよっぽど楽な方法よ。おばさんもそのお金で楽させて欲しいわ。じゃあまた連絡待ってるから。』

ふふっと笑いながら電話が切られる。

七海の手の震えは止まる気配を見せない。

そこで部屋のチャイムが鳴る。

無心で走っていくと琴乃だった。

七海はドアを開けると琴乃に抱きついた。



「琴乃っ!!!」



琴乃に触れた途端七海の眼から涙があふれて止まらなかった。







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