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clarity love  作者: 朱希
29/50

事情

君への覚悟の証は





僕の心の中に






だからきみは






僕へ希望をください







clarity love 事情








「失礼します」

雅が社長室へ入ると社長はほっとしたような顔をし雅を見る。

「雅くん、待ってたよ。」

この社長は媚を売るのがうまい。円はここに似たのだなと心の中で雅が思う。

「先日のライブはよかったよ。香南はどうしたんだ?いつもとまるで違って。円も驚いていたぞ」

「少しずつ彼らも変化しているんです。それよりも社長、先日の打ち上げに円さんがいらっしゃったのですが…」

睨むように社長を見る。すると社長はおどおどしながら答える。

「円がどうしてもというからな。香南のあれはなんとかならんのか。この間も円が行ったらすぐ離されたと言っていた。ファンの事を考えたらもう少し直すべきではないかね?」

この社長は一に娘二に娘だ。

雅はこの会社に入った当初からおかしいと思っていたが、自分に関係ないとたかをくくってきた。

しかし、いざanfangのマネージャーになり、anfangを円が気に入りはじめると関係ないなど言ってられなくなった。

円が好きになったものを途端に売りはじめる。結果的にanfangは爆発的に人気となったが、その他においては全く興味のないような扱いになっている。

他のバンドもいいバンドがたくさんいるのに、その売り方を根本的に社長がわかっていない。

それが雅の今の最も心配の種だった。

「香南も頑張っています。少しずつですが治ってきているんです。様子を見てあげてください。」

「そ、そうか。それならよかった。そう言えば円とは違う女の子もその打ち上げに来て言ったようだね」

心配そうな声で社長が尋ねる。

もうすでに話が流れているのかと思わず舌打ちしそうになった。

「はい。」

「円がひどくショックを受けていてね。よくわからない子を連れてくるなら円に慣れさせたらいい。騒動だけはないようにしてくれよ。」

「…はい。」

七海の事をよくわからない子と言われ雅も思わず怒鳴りそうになったがとどまる。

こんなところで喧嘩をしても意味がないのだ。

社長がふう、とハンカチを懐から出すと顔の汗をぬぐう。

「ところで、その、一つ企画が出て来ててな。アルバム作っている最中で悪いんだが、シングルを一枚お願いしたい。」

「…は?」

雅は茫然としてしまう。

「本当はCMも頼まれたんだが、香南のこともあるしな。シングルだけでOKをもらった。」

「ちょ、ちょっとまってください。」

雅が頭を押さえる。

「アルバム作成が終わらないとツアーの練習もできない。ようやくシングル作り終わったんです。それなのにまたシングル作成って無理ですよ。そんな一日に何曲も作れるわけがないんですから。」

雅がスケジュールを頭に浮かべながら口論する。

しかし社長は苦笑いをするだけで返事を変えようとしない。

「いっ一曲、二曲増えたところでかわらんだろ。な?ちなみにテーマとしては暗い曲が良いらしい。だから香南に作ってもらってくれ。」

それどころか注文をバンバン言ってくる始末。

雅は唇をかみしめると社長を睨む。

「メンバーと相談してみます。」

立ち上がり礼をすると社長室から出た。








七海の家からの帰り、雅はメンバーにそのことを話した。

案の定4人からはため息しか出てこなかった。

「仕事がないよりはましだけど…」

「ようやくアルバムの曲の構造ができてきたところだぜ?ちょっとなー…」

「香南くんは大丈夫なの?一番負担がかかるのは香南くんだよ?」

みな一同に香南の方を見る。香南は眉間にしわを寄せていた。

「その、実はアルバムの曲もあまり出来ていない。曲が作れなくて。」

途端香南が下を向く。

いつもの香南なら一番に曲を作りすぐ作業が入れたのだ。

「忙しかったからか?」

雅が心配そうな声で聞く。すると香南はいや、と顔を横に振る。

「その、いつものような曲が作れなくて。」

その声に一同が納得した。

「そっかあ…まあアルバムの場合はそれでもいいけど…」

「雅さん、これは駄目だ。シングルの企画なしにしてもらおう。作れねえよ。」

慮がはっきりした声で言う。

雅がクスリと笑うと了解と伝えた。








しかし、翌日社長室へ向かうと思わぬことを言われた。

「きっ企画を通した…!?」

雅が呆然とする。

「その、例のバンドがいただろう?そのバンドの赤字を埋めるためにどうしても必要なんだ!!報酬もとてもいい。頼む!」

社長自身が頼み込む会社もどうだろうと疑問を持ち始める。

経営の上手ではない社長の弱点はこんなところにまで影響するのか。

しかし、ここで引くわけにもいかない。事実書けないのだから。

「香南は今変わろうとしています。事実、人とのコミュニケーションも少しずつですができるようになっています。その代わり、前のような曲が書けなくなっています。」

「なっなんだと!?」

社長が目を見開く。

「それでは駄目だ。クライアントはあのダークさが良いと言っている。もしかして、例の打ち上げに来た彼女が関係しているんではないのか?」

「…それはわかりません。」

雅はうやむやに答える。

社長はそれで悟ったのか悔しがるように雅の方を向く。

「こうしよう。その彼女と引き離し自分改造は後にして先に曲を書かせるんだ。一人でホテルにかんずめにさせても。それだったら書けるだろう。」

「社長!」

それはいくらなんでもやりすぎだと口論する。が全く社長は聞かなかった。

「とりあえずもう決まったことだ。何が何でも書いてもらう。いいな。」

ここまで言われてしまうとノーとは言えなくなる。

雅は社長を睨むとわかりました、と答え外へ出て行った。










社長の横暴ぶりをメンバーに伝える。

香南はやはり眉をひそめた。

「まだまだ先だから。とりあえずアルバムの作曲を完成させよう。気にするな。」

雅は香南を励ますがどうにも香南の様子は変わらなかった。

「ちなみにシングル完成目標はいつなんだい?」

周が聞くと雅は制作スケジュールを4人に渡す。

「一応9月下旬ってところかな。今が7月中旬だから…曲としては8月下旬までに作って欲しい。」

香南は一息つくと雅の方を向く。

「曲は、先にアルバムを作ることにするからシングルは8月下旬に作る。一人になるから数日空けて欲しい。」

雅は苦笑いをしながら頷く。

「悪いな。」

雅の言葉に香南は首を横に振った。









7、8月はすさまじいスピードで過ぎて行った。

もちろんアルバム制作も忙しかったのだが、その忙しい中で暇を作っては七海たちとどこかへ遊びに行っていた。

近くの公園と言う近いところや、少し遠い場所まで行き森林浴もした。

その間に香南は人と話す練習をする。

七海たちを遊びに行った場所でも同じ森林浴をしていたおばあちゃんたちと不器用にではあるが話をしたり、スタジオなどでも知らない女性にも挨拶をするぐらいは頑張っていた。

その変化にスタッフももちろん驚いており、その他スタジオにいる人々もどうしたのかと目を見張るものがあった。









気づけば8月下旬になっていた。

その日も七海の家にいた香南はおずおずと話し始める。

「その、仕事でしばらく会えないんだ。電話も、できなくて。」

下を向きながらぼそぼそと話し始める。

七海もさみしいがその気持ちを隠し明るくふるまう。

「わかりました。お仕事では仕方ありませんね。お仕事終わるの待ってます。」

仕事頑張ってください、とエールを送る。

香南はその声に唇をかむとバッと前を向く。

「その仕事が終わったら、ネズミーランドに行こう。夏休みの最後の日、空けといて欲しい。」

香南が七海の手を取りながら言う。

七海はびっくりした様子だったがとても嬉しそうに笑う。

「はいっ!楽しみです!」





その仕事が終われば、自分は覚悟を決める。





そう香南は決意を固めていた。







番外編を書きました。新しい長編もののカテゴリで作っておりますので私のページから飛んでみていただけるとありがたいです。



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