優しさ
気づきたくない
だから私は
必死に仮面をかぶる
clarity love 優しさ
夕方になると雅が双子を連れて戻ってきた。
双子は小さいけれどきれいな花を1つずつ摘んで帰ってきた。
「幼稚園の近くに咲いていた花なんだ。二人がどうしても摘んで帰りたいって言うから摘んできちゃった」
もちろん、人の家のものじゃないから安心してと雅が説明してくれる。
「「ななちゃんはいどーぞ!」」
二人から花を受け取る。
「ありがとう」
七海は笑顔で答える。
早速小さなコップに花を入れ、どこに飾るか思案し結局キッチンに飾ることにした。
夜は夏流と二人で準備をした。
材料は雅が事前に夏流からメールをもらっていたのか双子を迎えに行く前に買ってあったようだった。
他の皆にはメニューを秘密に作っていた。
他の人たちはみなテレビに夢中で再び仮面Xマンを見ているようだった。
「今夜は、これでーす☆」
ご飯ができたとキッチンに呼ばれると、準備してあったものはホットプレートだった。
もちろん、ホットプレートは七海の家のものだ。
「これでなに作るんだよ」
燎が早速ビールを飲みながら質問する。
「これです!」
そしてプレートに生地を流し込む。
その生地にはキャベツがふんだんに入っていた。
「「おこのみやき??」」
おずおずと双子が質問する。
「双子ちゃんだいせーかいっ!!!そんな双子ちゃんに、はいいちばーん」
早速できたお好み焼きを双子のお皿に差し出す。
「「おいしそー」」
双子の口からはよだれが垂れていた。
それに七海が苦笑するとお箸でお好み焼きを小さくわける。
「はい。どうぞ」
「「ありがとー!!!」」
元気よくお好み焼きにありつく。
「ななちゃ!おいしい!」
「おいしい」
その食べっぷりを見ていると横から今度は七海の皿へとお好み焼きがやってきた。
「一緒に作ってくれたから次はななちゃん!」
「ありがとう、ございます!」
七海は早速口の中にお好み焼きを入れる。
その味は朝食同様文句の言いようがない美味しさだった。
「おいしいです!」
七海の笑顔に夏流も嬉しそうにはしゃぐ。
「よかった!どんどん作るからいっぱい食べてね!」
夏流は鍋奉行ならぬプレート奉行になりたくさん作った。
そんな中、香南は自分のところにお好み焼きが来ると双子や七海に提供した。
「香南さんも食べてください」
ほとんど自分のものを食べていない香南にすかさず七海は自分のところに来たお好み焼きを香南に渡す。
「俺は良い。七海たくさん食べろ。」
七海の皿へ戻そうとするが七海に止められる。
「私もたくさん食べます。ほらっ新しいお好み焼き焼けてます。」
そのお好み焼きを自分の皿へ持って行き小さくわける。
それを箸でつかみ香南の口の前まで持って行く。
「おいしいですよ?」
七海にとっては双子にいつもやっている行為でそこまで意味がなかった。
しかし好きと自覚した香南にとっては顔を真っ赤にさせるに値する行動だった。
「?…っ」
数秒後、流石に七海も気づいたのだろう。
七海も真っ赤になり思わず手を引っ込める。
しかし、香南はその手を取ると箸が掴んでいるお好み焼きを口の中に入れた。
そして咀嚼をすると笑顔で七海の方を向く。
「ああ、おいしいな。」
その笑顔に七海も照れながら笑顔を作った。
「やーだー!!」
「にーちゃー」
明日も学校と言うことで早めに帰ることにしたメンバー。
しかし、皆が帰ろうとすると双子が駄々をこね始めた。
こんなにわがままを言う双子を見るのも久々で七海もどう止めたらいいかわからなかった。
「二人とも、明日も香南さんはお仕事なの。バイバイしないと」
一生懸命説得しようとするがまるで効果がなかった。
「にーちゃー!!」
「あそぼ?」
二人は香南のズボンの左右にぶら下がる。
ズボンには二人の涙や鼻水が付き放題で二人は香南にべったりで離れようとしなかった。
「うーん。双子ちゃんは本当に香南が大好きなんだねえ。」
「もー僕が料理作ったのに」
「まあ、香南がずっと世話してたからなあ」
3人3様それぞれ意見はあるようだった。
香南は照れながらも二人と同じ目線まで座り二人の頭を撫でる。
「また、会いにくるから。今日はお別れ、な。」
「「にーちゃ?」」
「だから、泣くな。な?」
二人の涙を拭いてあげる。二人はしぶしぶと頷いた。
「香南さん…」
七海が申し訳なさそうに立っている。香南が立ちあがる。
「時間できたらまた会いに来る。ネズミーランドも、、もっと頑張るから、慣れたら行こう。」
今度は七海の頭を撫でる。
いつもより優しく、そして何かに戸惑う様に
それに応えるように七海が笑顔でうなずく。
そうして雅たちは帰っていった。
「「ななちゃ」」
双子が服の袖を引っ張ってくる。
「え?」
「なみだっ」
「ごしごしする」
知らぬ間に七海の眼から涙が出ていた。
「本当だ」
慌てて目をこする。
しかしこすってもこすっても涙が出てしょうがなかった。
七海は空を見上げる。
すると星がきれいに瞬いていた。
あまりに綺麗すぎて目がくらむ。
自分にはやらなければならないことがある。
それを分かっているのに、この優しさを振り払えない。
本当は、その理由も彼の優しさの理由も心の奥ではわかってる。
だからこそ、はっきりしなければならない。
けど、けどね、神様
もう少しだけ、このままでいさせてください。
気づかないふりをさせてください。
その時が来るまで
彼の優しさに甘えさせてください。
どれだけ願っても
星はただただ光っているだけだった。
いったんここで区切りとなります。
追記
番外編を書きました。
新しく長編として作りましたので私のページから飛んでいただけると幸いです。