想い
きみのまどろむ姿は
まるで僕をからかう天使のようで
無邪気に僕の理性を蝕む
clarity love 想い
七海が寝静まると静かに部屋から出る。
3人の寝顔はとても穏やかで見てる香南も微笑ましくなるぐらいだった。
下へ行くと4人でお酒を飲んでいた。
「おい、部屋酒臭くすんなよ。」
香南が忠告する。
「だいじょーぶ!換気するし。シングル完成祝いにいいじゃん。」
「香南君も、早くおいで。」
周が手招きをすると、香南はため息をつきリビングの机へ向かう。
「明日は休みだし、七海の看病しながらのんびりするかー」
久々の休みに流石の燎も嬉しそうだった。
「ツアー終わってからすぐシングル作成。全く社長は何考えてるんだろ。」
曲作れるのは嬉しいけどさ、と夏流が酒をぐびぐび飲みながら愚痴をこぼす。
「うーん…何とも言えないな。明日また社長に呼ばれてるんだけどね。」
雅がぼそりとこぼすと4人の目線が一気に雅へ移る。
「つまり、まだまだ休む暇はないってことだねえ。」
「くっそー。デビューのころからそりゃお世話になってるけど、今年に入って何枚目だ?作らせすぎだぜ。絶対何かあっただろ」
燎が頭を掻きながら文句を言う。
それに雅も苦笑する。
「まあ、円さんがanfangのファンだしね。社長だって子供は可愛いんだよ。それに事実このレコード会社を引っ張ってるのもanfang。盛り上げたいんじゃないかな?」
「はっ公私の区別もできないやつが社長なんかすんじゃねえよ。」
燎が苦笑しながらビールを一気に飲む。
「まあ、何とも言えないけどね。他のやつらぱっとしないし…」
anfangの所属しているレコード会社、ジュエリストで一番売れているのがanfangだった。というよりもanfangで持っていると言ってもいいぐらいanfangに依存している形となっていた。
もちろん曲を作らせてもらえることは嬉しい。しかしここまで過密スケジュールになるとメンバー一同文句も言いたくなると言ったところであった。
事実今回のシングルは完成した物の次のアルバム作製はもう始まっている。そして秋にはまたツアーが始まる。
死の語の言っている場合ではないが、流石にリフレッシュしたい。
「いっそのことホントにネズミーランドに行ってパーっと騒ぎたいよ。夢の国行きたーい!」
「夢の国?」
香南が質問をする。
「ネズミーランドの事を別名で夢の国っていうんだよ。本当にあそこは徹底しているからねえ。帰りたくなくなるだよ。」
「へえ。」
香南がビールの缶を開けぐびぐび飲み始める。
「まあ香南いるからねえ。さっきは行くって言ってたけどホントに行くの?香南あんなところ行ったら一発で救護室行きだよ」
夏流が少しからかう様に言う。
「…行くよ。七海のためなら。」
しかし、香南の答える瞳は真剣そのものだった。
「ようやく知ったんだ。ようやく、、感じることができたんだ。それを教えてくれたのは七海だ。」
メンバーが目を見開く。
すると夏流の瞳から涙がこぼれる。そして香南に抱きつく。
「やっと、やっと知れたんだね。よかったあ。よかったよおお」
香南は苦笑いしながらその行動を遮ろうとはしなかった。
燎と周もほっとしたような顔をしたものの、少し複雑そうだった。
夏流が落ち着くと乾杯をする。
もちろん香南を祝してだ。
「しかし…愛を知ったのは良いけど、色々と問題ありだぜ?」
燎が今度はハイボールを飲む。
「どういうことだよ」
香南が睨む。
「七海はたぶん、ってか絶対賢い。お前の気持ちに気づく。」
すると周も真剣そうな顔をしながら言う。
「そうだね。それに、あんな小さな二人を両親死んでから一人で守ってきたんだ。君と同じように何かを抱えているよ。」
「・・・」
そして燎が香南の方を掴み香南の目を見つめる。
「いいか、人の抱えているものには二つある。”愛”で解決できるものと解決できないものだ。お前の抱えているものは前者だけれど、七海のは確実に後者だ。」
「・・・」
「それをお前は何も振り返らず聞けるか?聞ける覚悟があんのか?」
燎が香南を睨む。
「っ・・・」
「二人ともっ」
夏流が弁解しようとするが周に睨まれ何も言えなくなる。
確かにその通りであった。聞く勇気がないのが今の現状だった。
聞いていれば何か役に立ったかもしれない。
七海は倒れなかったかもしれない。
しかし、現実はできなかったのだ。
関係ないと言われるのが怖かったから。
この愛を否定されるのが怖かった。
「いいか、この際だから言っておく。その覚悟と”何か”を断ち切る術を必死で考えろ。そのための強さを身につけろ。それができないなら七海に伝えるなよ。じゃないと両方傷ついて共倒れになるぞ。そんなところ俺は絶対見たくねえ。」
再びハイボールをごくごくと飲む。
燎は七海が現れた時、こいつは使えると思った。
香南を変えてくれる人物が現れたと。
ただ、香南を変化させてくれる”もの”としか思っていなかった。
しかし、違ったのだ。
いつの間にか七海はanfangの中に溶け込み、今回の件のように他のメンバーまでも巻き込んでいった。
anfangにとって大切なものとなってしまったのだ。
だからこそ、傷ついて欲しくなかったのだ。
香南にも、七海にも。
たとえ二人の心が同じだとわかっていても。
香南をじっと見る。
最初はおどおどしくしていたものの、一度目を閉じ息を吸って息を吐いた。
持っていた缶ビールを一気飲みする。
そして次、目を開けた時には今まで見たことのない生気を灯した目をしていた。
「覚悟…強さ…」
一言つぶやくと、缶ビールをぐしゃりと握った。
短いですがいったん切ります。