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clarity love  作者: 朱希
24/50

林檎

この一粒の欠片は







君への気持ちと







僕への忠告







後戻りはできない証








clarity love 林檎







香南は涙をぬぐい車に乗る。

雅は何も聞かずにそっとしておいてくれる。

無言の車内。しかし香南が口を開く。



「雅さん、俺」

「うん。」

「俺、七海が好きなんだ。」

「…うん」

「ようやく知れたんだ。ようやく」

「うん。わかってる」



窓の外を見ると夕陽が海の中へ消えていくところだった。

七海の笑顔が思い浮かぶ。



香南さん



もうすぐ、暗闇がやってくる。






七海の家へすぐとすぐさまドアを開ける。

すると双子が飛びついてくる。

「うええええええおにいちゃああああ」

「ななちゃっななちゃがっ」

「ああわかってる。お前らよく七海を守ってたな。偉いぞ。」

そして二人に七海のところへ連れて行ってもらう。

七海はリビングの机のところで凭れるように座っていた。

急いで近づくと意識はないものの表情は穏やかで息はしている様子だった。



よかった

生きてた



香南は崩れるように床に座った。

「おにーちゃ?ななちゃ」

「…大丈夫だ。息してるし。」

双子の頭をなでる。

すると双子の大きな目が一層大きく開かれた。

「ほんと??ななちゃ、おっきしないよ?」

「しないっよ?」

「ああ。けど一応病院へ行った方がいい。俺もついていくから、一緒に行こうな。」

そういうと二人は頷いた。

「香南。近くであいてる病院探したから行くぞ。」

「ああ。」

そして香南は七海を背負う。

双子も香南の袖をつかみながらついてきた。







病院へ行き医者に診てもらう。

医者からはストレスからくる緊張そして睡眠不足と極度の疲労と言われた。

「全く、まだこんなに若いのに。あまり無理をさせないように。あと栄養あるものを食べさせなさい。」

「…はい」

そして点滴を打ってもらい家へ帰ることとなった。

七海の家へ戻り七海をベッドに寝かす。

そういえば七海の部屋へ初めて入ったと見渡す。

部屋は良くわからないネズミのキャラクターものでいっぱいだった。

どうしようもなかったとはいえ、今更ながら勝手に入って申し訳なかったなと思う。

ずっと傍から離れない双子を見る。不安でいっぱいと言うような顔をしていた。

「七海はもう大丈夫。顔色も良くなってきたし。」

そうして一緒に座り、頭をなでてやるが顔は一向に不安な顔のままだった。

すると雅が部屋へ入ってくる。

「ご飯買ってきたけど、どうする?」

香南に聞いたのか、双子に聞いたのかわからなかったがそれでも双子が香南の服に顔をくっつけながら首を横に振る。

これだけショックなことがあったんだ確かにわからないでもない。

しかし、食べないというのは体に悪い。

「お前らちゃんと食べないと、七海起きて悲しがるぞ」

宥めながら伝えるが頑固として譲らなかった。

香南はため息をつくと思案する。

そして一つ思い出した。

「雅さん、林檎と包丁持ってきて。」






しゃりしゃり





ああ、懐かしい。

お母さんかな久しぶりだな。お母さんの剥いた林檎食べるの。




しゃりしゃ

いつっ





いつっ?

なんで何かで切って痛そうな声がするの?

違う。この声は―――






ふと七海が眼を開ける。すると傍には林檎を剥くために格闘している香南とそれをはらはら見ている双子がいた。

「にいちゃあ、痛いにゃあ」

「はい、ばんそーこー!」

「ああ、さんきゅ」

それから指をなめ、絆創膏を貼ると林檎向きを再開し始める。

包丁の持ち方が危なっかしい。

「その、持ち方だから、、切っちゃうんですよ。」

七海が少し笑みを浮かべ話す。

すると3人が驚いたようにこちらを向く。

「七海っ」

「「ななちゃあああ!!!」」

香南が林檎、包丁を近くの皿に置くと3人が抱きついてきた。

「大丈夫か?気持ち悪いとかなんかないか?」

「「ななちゃあななちゃあ」」

香南がすごい剣幕で質問し、双子は多泣きする始末。

「は、はい。少し脱力感がありますけど」

なぜ?どうして?と不思議がっていると、香南が七海のおでこに手を置きながら話す。

「七海、倒れたんだよ。で、双子から電話がかかってきて飛んできた。」

熱はないようだなと頷く。

七海は驚く。

「えっ、すっすみません。ご迷惑を」

「ご迷惑をじゃねえ」

少し張りつめたような声で香南が言う。

それに七海は肩をあげる。

香南は一つ安心したような溜息をつく。

「心配した。本当に心配したんだからな。無理すんな。」

そして再び七海を抱きしめる。

七海は涙があふれてきた。

「ごめっごめんなさい」









七海が落ち着くのを待つとふと香南の手に気づく。

「香南さん、指」

香南の指にはいくつもの絆創膏が貼られていた。

「あ、わりい。血ついてないか?」

「いえ、大丈夫ですけど」

いったい何を?不思議がると、香南が再び林檎を取る。

「こいつらがご飯食べねえっていうからこれなら食べると思って」

そういった林檎の形は明らかに小さいサイズになっていたが、心なしかうさちゃん林檎に似ていた。

「うさちゃん林檎?」

「ああ。けどこれ難しいな。剥き方わかんねえ。」

香南が苦笑いすると七海も少しだけ笑う。

香南が一つ向き終わるとつまようじを指し七海に差し出す。

「はい。」

そのまま口に入れてもらう。小さいから一口で入った。

しゃりしゃり

「…どうだ?」

「おいしい…です。」

ぼこぼこで、少しだけ血の付いたうさちゃん林檎。

それが何よりもおいしかった。





おそらくしわしわのうさちゃん林檎だと思います(笑

けど、何より暖かいんでしょうね。

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