電話
出なければならない
出て戦わなければならない
幸せな生活を勝ち取るために
clarity love 電話
夜、七海の家の電話が鳴る。
月の終わりの電話と言ったらこれしかないと七海は幽鬱になる。
双子にはテレビを見ててねと伝えると自分の部屋へ向かう。
そして子機を見、深いため息をつくと意を決し通話ボタンを押す。
「もしもし」
『もっと早く出れないの!?』
相手は親の代わりをしているおばあちゃんの世話をしている由紀子おばさんだった。
早速文句を言われ謝るしかない。
「す、すいません」
『全くだから最近の子はなってないっていうのよ。ところで就職はどうなの?できそうなの?』
電話を取ればすぐこれである。
今年高校3年の七海は4月になるとすぐに就職の話を聞かれた。
それはまだよかった。
挙句の果てに最初の懇談会の時についてきてこの子は就職するから早く職を探してくれ。と担任の先生までに言う始末だった。
七海は頭が良かった。どこかの大学には入れるぐらいには。
担任の先生もそれを押し大学へ入った方がいいのではと勧めた。
ところがその話に由紀子おばさんはカンカン。
これ以上お金をかけるなと先生にも七海にも叱り結局就職をちゃんとするということでその時は話がついた。
「えと、一応今度のテストのできで受かる確率が違うそうです。まだどのような場所があるかはわかりませんが」
先日、担任の先生からそのことに関しての呼び出しがあった。
『まだ求人は来ていないんだが、例年だと今度の期末テストの結果で求人先を選べるようになってる』
『はいわかりました。』
少しの沈黙の後、先生は七海の顔を真剣に見、話し出す。
『本当に、これでいいのか?奨学金制度とかいろいろあるんだぞ?』
七海は首を横に振り苦笑いをして答える。
『いいえ。私には弟たちがいます。私が彼らを守らなければならないんです』
『…そうか』
そう呟くとその日の呼び出しは終わった。
『じゃあそのテストの結果次第なのね。』
由紀子おばさんの声にハッとする。
「はっはい。」
『テストの勉強はどうなの?できそうなの?できそうじゃなかったらあの二人預かることもできるわよ』
できそうかと問われたらわからない。3年になり範囲も広くなった。
予習などをしている七海にもわからない部分がいくつかあるのだ。
しかし、おばさんにあずかってもらうことなんて絶対あってはいけない。
「いいえ、大丈夫です。できます。」
『そう。よかった。面倒みるのはおばあちゃんたちだけで十分だもの』
またテストの結果を連絡するということで電話が切れた。
以前アルバイトをして倒れた時、入院してしまった七海は二人をおばさんに預かってもらったことがあった。
無事退院しいざ二人を迎えに行くと二人の様子がおかしかった。
どうしたんだと聞いても首を横に振るだけ。
二人をなだめながら家に帰る。
そして家に帰ったとたん、二人が多泣きし始めた。
どうしたのかと聞いてもただ泣くだけ。
しばらくしておさまったかと思うと美羽がつぶやいた。
『ぼくたち、いらないこなの?』
まさに鈍器で頭を殴られたような感覚に陥った。
話を聞くと由紀子おばさんは何かあるたびに二人文句を言い、二人はいらない子だという発言をしたらしい。
なんてことを言うのだ。
まだこの子たちは幼い子供なのに。
この子たちを守るには自分が頑張らなければならない。
七海は強く思った。
夜八時ごろ、いつも通り香南から電話がかかってくる。
双子たちもいつも通り元気な声で今日あったことを話す。
ついつい七海もニコニコ笑ってしまう。
そして七海にかわる。
『七海か?』
「はい。」
『変わりはないか?』
「…はい」
香南の声が今日はやけに優しく聞こえる。
優しすぎて苦しくなるぐらいに。
七海は涙が出そうになるのを必死に抑える。
『…七海?』
「はい。」
「「ななちゃ…?」」
隣からも七海の顔を見て心配するように双子が覗き見てくる。
ここで泣いてはいけない。
心配をかけさせてはいけない。
「だっ大丈夫です!あの、香南さん、申し訳ないんですけど私もうすぐテストで、今から頑張らなくてはならないのでしばらくの間双子たちとだけお話してもらってもいいですか?」
香南は何か言いたそうに間をあけるが、七海が話を続けるとそれをちゃんと聞いていた。
『…そうか。高校はそんな時期か。』
「はい。その、就職のためのとても大切なテストなので」
『…七海、就職するのか?』
びっくりしたように香南が問う。
香南も七海は大学に行くと思っていたらしい。
七海はクスリと苦笑いをする。
「はい。双子もいますし。特にやりたいこともないので」
そういうとそうか。と香南が呟く。
『わかった。しばらくは双子と話をする。』
返事を聞き七海はほっとする。
「ありがとうございます。それではそろそろ」
『…ああ。…七海』
「はい?」
少しの間をおいて香南が続ける。
『無理だけは絶対するな』
その言葉に七海の瞳から涙があふれ出す。
「はいっ。では失礼します。」
ブチッ
こちらから電話を切ってしまった。
「「ななちゃ??大丈夫」」
二人がまたもや心配そうに覗く。
そして二人が必死に頭をなでてくれている。
「うん大丈夫だよ。香南さん優しいから泣いちゃった。」
笑顔で答える。
優しすぎて涙があふれる。
しかし甘んじては駄目なのだ。
守るためには戦わなくてはならない。
七海は必死に涙をぬぐった。
ここからまた少し話が進みます。




