携帯
この鈴の音に
呼ばれて
君の言葉を求める
clarity love 携帯
日向七海の朝は早い。
朝5時半に起きて洗濯機を回す。
回しながらお弁当と朝食の準備をする。
双子たちが最近お気に入りのたこさんウィンナーを忘れずに。
洗濯機から洗濯物を出し干す。
その頃にはアラームが鳴る。双子のお目覚めの時間だ。
しかし一筋縄ではいかない。
寝起きの悪い瑠唯は特に起きてくれない。
20分ぐらいかけてようやく起きてもらう。
もそもそと双子とご飯を食べる時間が唯一朝で心が休まる時だ。
そこから着替えを始め、必要なものを持ち通勤する。
というのが今までの流れだった。
しかし、携帯を持った今、やることが増えた。
それは香南に弁当の写メールを送ることであった。
琴乃との事があった後早速夏流からメールがあった。
最初何を書けばいいのかわからなかったが、とりあえず食べていた弁当を撮り送った。
すると香南からそのおかずはあのおかずは何だと質問メールが続々届く。
それに一つ一つ答えていくと最後にまた送ってくれとのメールが来た。
それならばと毎朝解説付きで送ってあげることとなった。
そしてそのかわりなのか、あちらも昼ごはんの写メを送ってくれる。
ほとんどがどこかで購入したお弁当のようなものだったが、やたら和食が多かった。
最後に必ず「七海のごはんが食べたい」と添えられている。
そんな毎日のメール交換が始まったのだった。
夜は夜で大体8時ぐらいに電話がかかってくる。
おそらく双子が起きてる時間帯を見込んでであろう。
最初は双子にかわり会話をする。
今日幼稚園であったことを伝えもできないのに体いっぱい使って表現する。
しかし、香南はしっかり相槌を打ち会話を聞いていた。
そして七海にかわると「何か変わったことはないか?」から始まり、昼ごはんについて、七海の学校のことについて、そして香南の仕事について話す。
最後におやすみなさいで切り、双子たちは眠りに就く。
そんな毎日が続いていた。
「かなーん、収録」
「…あぁ」
「…」
「…」
「うーん、これは香南君聞いてないねえ」
メンバーが香南を呼ぶが何一つ聞いてない。
香南の真剣ぶりに全員でため息をつく。
その原因はただ一つ。携帯だった。
今までは持っていても使わずほとんど家に忘れてきていたのに、七海と連絡を取るようになって携帯依存症よろしく常に隣に置いているようになった。
たとえ次のツアーの企画会議、シングルをどのようなものにするかの相談。様々な重要会議の時にも常に隣に置き、七海から着信が来るとすぐとっていた。
最初は微笑ましく傍観しているだけだったが、ここまで来ると流石に営業妨害な気がする。
意を決し、燎が香南から携帯を奪い去る。
「おい、燎なにしてんだよ」
当たり前のごとく香南が燎を睨む。
燎も負けじとにらみ返す
「当たり前だ。さっきからなつが収録だつってんだろ。仕事だし・ご・と。七海のこと気になるのもわかるが、仕事はちゃんとしろ。七海の携帯代払えなくなってもいいのか?」
自分のことならつゆ知らず、七海の事を出されると何も言えなくなる。
香南はしかたなくいそいそと準備を始める。
準備を終えたところでメンバーが部屋の前で待っていた。
部屋の前まで行くと香南が後ろを振り返る。
「香南、収録には携帯絶対持っていけないからな」
「…わかってる」
少し悲しそうに、香南が収録先までとぼとぼ歩きだす。
燎はため息をつき香南を見つめる。
「ったく、その気持ち、気づいてんのかねえ」
夜の7時ごろ突然七海の携帯が鳴りだす。
着信相手を見ると夏流だった。
何事かと電話に出ると夏流が泣きながら出る。
「ななちゃーーーん!!!もう言ってやってよおおお」
「えっと、何事でしょうか…?」
「香南がねっ!!!かなんがああ!!!」
そこから何を言ってるのかわからなかったがとりあえず香南が関係しているらしい。
もう一度お願いしますと言うと違う人にかわった。
「はあい。久しぶり。」
声を聞くと周だった。
「周さん。お久しぶりです。お元気ですか?」
「元気も元気。皆元気だよ♪」
「香南さんから聞いています。けれどよかったです。」
ほっとすると後ろから要件いいなよと促されていた。
「そうそう。香南君のことなんだけど、七海ちゃんからも言ってやってくれないかなあ?」
「はあ、なんことでしょうか?」
するとため息を吐き続ける。
「香南君、今携帯依存症なんだよ。仕事中もずっと携帯見てるの。流石に燎に怒られてるんだけど直らないんだよねえ。」
「えっ、」
「だからさ、ちょっとガツンとななちゃんから言ってやってよ。そしたら直ると思うんだよねえ。」
すると後ろからがさごそと電話相手が変わる音が聞こえる。
「七海、良いか、とりあえず時間を決めてやってくれ。朝一時間、昼一時間、夜2時間とかで良い。携帯優先時間ってやつを決めて、あとは雅に預けるとかそういう提案してやってくれ。いいな!?」
「えっ、」
燎が提案する。とてもイライラしているように聞こえた。
とてつもなく香南が世話を焼いてるに違いなかった。
「ったく。何かに執着するのはいいことだと思うんだが、あいつの場合執着したら止まらないんだということが良くわかった。良いな、七海、今から代わるから。」
一人で自己解決したかと思うと香南にかわると言い始める。
電話の後ろの方でなんだよと香南の不機嫌そうな声が聞こえる。燎が七海だと言うと素早く電話を取る音がした。
「もしもし?」
「あっ今晩は七海です。」
不思議そうな香南の声が聞こえてくる。
「どうした?なんかあったか?」
「いや、あの…」
電話の後ろの方から視線が向けられているような感覚に陥る。
先ほどメンバーが言っていたことを思い出す。
「あの、香南さん最近携帯依存症なんだそうで。」
「?そうなのか?」
全くわかっていないと言ったように香南が答える。
これでは駄目だと説明を続ける。
「えっと、仕事中も携帯を見てると言う話を聞いて、仕事中はなるべく集中した方がいいと思うんです。」
「…」
「で、ですね、その提案なんですけど、時間を決めて携帯優先時間を設けてそれ以外は雅さんに預けると言うのはどうでしょう?私もその時間以外メール送らないことにしますし。」
無言状態が続く。どうなんだ。これでいいのか?七海の背中に冷や汗が止まらない。
「俺とメールするのが嫌なのか?」
とても悲しそうな声で香南が言う。
あわてて弁解をする。
「そうではないんです!私が仕事の邪魔になっているのが嫌なんです!一生懸命お仕事をしてください!優先時間にはいっぱいメール送ります!」
「…」
「お仕事いっぱいして、テレビで活躍している香南さんをいっぱい見たいんです!」
切実にそういうとしぶしぶわかったという声が聞こえる。
ほっとすると夏流が電話にかわる。
「ななちゃんありがとー!もう超助かった!いやいや言ったけど、あれななちゃん以外だったら絶対聞かなかったから」
「はあ、」
「また時間とかに関しては香南からメールさせるから!仕事詰まってるからこのへんで!いきなりごめんね~」
「いえ、お役に立てたのなら」
「今曲作ってんの☆できたらデモテープななちゃんにも聴かせてあげるね☆んじゃ」
がちゃり
この人たちは自由人だなと改めて思った七海だった。
香南はそれからというもののメリハリをつけて仕事をするようになったとさ☆
次も一つネタを挟みます。
七海効果の凄さがひしひしと感じられますように(笑