決意
ひび割れていくのは
自分の心か
闇の深さか
clarity love 決意
抱きしめ合っていると、だいぶん落ち着いてきたのだろう。
香南の息が徐々に普通の早さに戻っていっているのを感じていた。
七海の涙も徐々に落ち着いてくる。
「ななちゃあ?」
「だいじょうぶう?」
後ろで必死にしがみついて離れない双子たちが心配そうに見る。
まだうっすらと涙がうかんでいた。
それにこたえるように笑顔を作る。
「香南さん、立てますか?あの、部屋が取ってあるようなのでそこで休みましょう。私も手伝いますから」
口元をタオルで拭いてあげながら提案する。
かなり陶酔しきった顔だったが、コクリと頷くとせえのと立ち上がる。
ふらふらの香南を支えながら隣の部屋へと移動する。
隣の部屋には布団が敷いてあった。そこに香南を寝かす。
息は通常に戻ったものの、顔の青白さは変わらなかった。
必死に前やったように手をこする。
手にはいくつもの痣ができており青く腫れていた。
双子たちも一緒に手をこする。
ごしごし、ごしごし
すると香南がうっすらと目を開ける。
「な、なみ、」
「香南さん、大丈夫ですか?」
心配しながら香南を見る。
すると少し笑みを浮かべてくれた。
「あの、無理しなくていいんです。何か欲しいものあったら言ってください。取りに行きますので」
必死に思い浮かんだ言葉を話す。
すると香南は首を横に振る。
「なな、み」
「はい」
「うた…って」
「へ?」
「しんきょく、うたって?」
笑みを浮かべながら香南は頼んでくる。
七海は恥ずかしそうにけれど、少し笑みを浮かべながら頷く。
さよならなんてない
きみはいってくれるだろうか
さよならのみらいには
はじまりがまっているんだろうか
それでもぼくはひとつふみしめる
すると、ほら、
天使があいさつしてくれた
きみがほほえみをくれた
一つひとつの言葉を大事に歌う。
しかしここぞというところで外す。
それを香南は穏やかな顔で聴き、途中から声にならない声で一緒に歌う。
とても、優しい声だった。
歌い終わると香南の握る手が一層強くなった。
「天使は、君だね」
そして気を失ったように眠りについた。
香南の手が七海の手を強く握っているので何もできないまま時間が過ぎていく。
双子たちは疲れ切ったのか香南の隣で寝ている。
冷たい香南の手が少しでも暖かくなるように無心でこすり続ける。
ごしごし、ごしごし、
そうしていると後ろの襖が開く音がした。
「香南、様子はどうだ?」
その声は燎だった。驚いて後ろを見るとメンバーと雅が来ていた。
「えっと、顔色はまだ悪いんですけど、他は大丈夫だと思います」
すると4人はよかったと安堵のため息をついた。
「打ち上げは…」
七海が心配そうに尋ねる。
雅が苦笑いしながら答える。
「なんとかあのお嬢さんは帰したよ。他の皆にはまだやってもらってる。」
そう、ですか。とぼんやり聞きながらそれでも一悶着は収集したようで安堵する。
「本当にありがとう。おかげでいつもより早く治ってるよ。」
雅が香南の顔色を見ながら言う。
「これが、いつもより早いんですか…?」
「そうだねえ。香南君いつもだったらホントこのまま帰ってこないから。暗闇に入ってとりあえず人と会うのを拒絶するからねえ」
「それが僕たちメンバーでもなんだよ。ふさがったらしばらく戻ってくるのに時間がかかる。けれど、今回はそんなこともなかったみたいだね。」
これでも時間が早かった。
けど、あれだけ人を拒絶しているのは明らかに常軌を逸している。
これ以上踏み出したらどうなるの?
しかしその気持ちの後ろに一つの決意が生まれていた。
あの笑顔。
一緒に歌ってくれた声。
私は、この人を。
これはエゴなのか、他の感情が宿っているのかわからないけれど、
この気持ち、信じたい。
「雅、さん」
突然話しかけられた雅は驚く。
七海は泣いて真っ赤になった目を雅に向ける。
「わたし、香南さんを助けたい。助け、たいんです。」
無意識のうちに涙がこぼれだす。
すると雅が笑顔を見せる。
他のメンバーも安心したような笑顔を見せてくれた。
短いですけどこれで終わらせてください。ここで一度切れるので。