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clarity love  作者: 朱希
14/50

暗雲

お食事中の方は読まない方がいいと思います。

そしていきなりシリアスです。

だから言っただろう?






闇はすぐに近づいてくると








clarity love 暗雲







前の方が主役4人(ほぼ3人と言っていいのだが)と盛り上がっている中七海たちは後ろの方で静かに料理を楽しんでいた。

雅もよく話をしてくれ、双子にも会話に参加させる。

雅の会話術に七海は驚嘆していた。

途中冗談もはさみながら自分の言いたいことをちゃんと覚えてもらうように話す。けれども相手の言いたいことも言ってもらうのを忘れない。


このように大人な会話術を学びたい。

そしたらあの親戚たちと対等に話せるのに。


七海は心の奥底でそう思いながら会話をしていた。







少しすると店員が後ろの戸から入ってきた。

「すみません少しよろしいでしょうか?」

雅さんに話しかける。

「はい、何か。」

「こちらの予約人数は全員来たと伺っているのですが、その、今受け付けの方にお一人こちらのお食事の予約で来たという方が来たのですが」

店員がひそひそと他人に聞こえないように話す。

「えっそんなことはない。もうこれで全員だよ。」

「私どももそのようにおっしゃっているのですが、なにぶん相手方がお引き取りにならないので…」


そう続けようとしたのだろうが、前の方の戸が突然バシンと開きそちらを注目する。

皆突然のことで何事だと注目するとそこには先ほどライブ会場で関係者席に座っていた可愛い女の子だった。


「皆さんこんばんは。こちらの打ち上げ私も参加してよろしくて?」

その態度は偉そうな王女様そのものだった。

「ま、まどかさん」

雅さんが驚いたようにつぶやく。

「雅さんこんばんは。私もいいでしょ?一ファンとして感想を述べる人が一人ぐらいいてもいいと思うの。皆さんもそう思いません?」

とても偉そうにべらべらと述べる。

会場が徐々に沈んでいるのがありありとわかる。

円がきょろきょろと見渡すと円を見て呆然としている香南を見つける。

心なしか香南の顔色が悪いようだった。

「香南さん!」

円は嬉しそうに香南の方に走りだす。

隣をキープしさらにべらべらと話しだす。

「今日のライブ素晴らしかったです。一曲目から今回は調子がよろしかったんですね。MCも話されて驚きましたわ。けれど香南さんの声聞けてとても嬉しかったです。」

話すたびに香南がだんだんうつむくのがわかる。

不自然に手が震えているのかそれをもう片方の手で押さえているのが片隅に見えた。

「えっと、まどかちゃん?」

他のメンバーが円に話しかけるが円はまるで聞こえていないように、香南に話し続ける。

七海も心配になってくる。しかし後ろにいるため状況がつかめない。

「円さん…!!」

雅はさすがに危ないと思ったのだろう。止めようと前の方へ行く。

その前に円が香南に触れようとする。

「まあ、香南さん、手が震えてる。どうなさって…」

「…じゃねえ」

「え?」

その手が香南に振り払われる。







「さわんじゃねえ!!!!」







香南は手で口を押さえると、部屋から飛び出した。









一同唖然としている。

双子は突然香南が叫んだためびっくりして泣き始めてしまった。

どうしようと思っていると雅が七海の隣に来る。

そして肩をがしっとつかまれ、動きが取れない状態となる。

雅の瞳が切実さを表していた。

「お願いだ。香南のところへ行ってくれないか?隣の部屋も一応取ってあるから、そこで休ませてやってくれ」

「け、けど、」


あんな香南を初めて見た。

あんなに一瞬のうちに闇の世界へ誘われる人を初めて見た。

私に何ができるの?

こわい。


様々な気持ちが入り混じる。目の前にいる雅の瞳のその向こうの自分が今にも泣きそうな顔をしているのがわかる。

しかし雅は真剣な顔でもう一度言う。

「七海ちゃんしか頼めないんだ。頼む。」

「っつ」

「七海ちゃん」

「あ、は、、、はい。」

七海は不安そうに答えた。





『香南は多分、すぐ近くの男子トイレにいるから。ここはなんとかするしお願い。』

男性トイレに向かう。しかし突然男性トイレに入る勇気もなく、双子に誰もいないか確認の意味も含め、先に入ってもらう。

「…っななちゃあああああああ」

「ななちゃっ」

大丈夫か聞く前に二人の泣き声が聞こえてくる。

「二人ともどうした…ひいっ」

たってもいられずトイレに入ると二人が七海に飛びつく。

そしてトイレの方を見ると辺りに殴られた跡のような個所が何個も見つかる。



奥からは苦しそうに嘔吐する声が聞こえてくる。終わったかと思うと喘息のように発作のような息をするのが聞こえる。

「おにーちゃんがげえげえしてたあ」

「ななちゃあ」

二人が報告しないでもわかる。香南だ。

二人をなだめながら奥の方へ行くと本当にきつそうにトイレにもたれかかっている香南がいた。

七海は一瞬ひるむ。


なんて声をかければいいの?

私にできることって何?

こわい、こわい、


ついつい、七海まで涙が出てきた。

それでも足は前へ進む。

そう、心の奥底では助けたいのだ。彼を。

泣きながら何も言えないまま近づくと香南が気がつく。

「な、ぜえっ、、はあっ、なみ…?」

「あっわっわたしっ」

何を言っているかわからない涙で前が見えない。


しかし何かしなければならない。何か答えなければならない。


全然回らない頭を回転させ、ようやくタオルを持ってきたことを思い出す。

「たったおひっくタオルっですっ」

だんだん近づいていき、香南に渡せる距離までくる。

ますます香南の顔色の悪さがわかる。


ここまで、ここまで悪くなるなんて。

なんで、どうして、


香南にタオルを渡そうとする。その手は震えていた。

香南はその手を自分の方へ引き寄せ、七海を抱きしめる。





「みっななみっぜえっなな、はあっななみっ」





香南がまるで壊れたように七海の名を叫び続ける。

その声は悲痛で、心の奥底まで冷えゆくようだった。

とっさに七海は香南の背中に手を回す。






「だいっだいじょぶですっ。わたっひっくわたし、ここにいるっ!いますからっ」






だから、






お願い。







泣かないで。








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