表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Square  作者: AkIrA
7/44

#7:本心

心臓の音が五月蝿い。

彼女に触れてしまった手が、痺れているような感じがする。

極度の緊張から解き放たれ、漸く柳は詰めていた息を吐き出した。


柔らかい微笑みを思い出し、未だあの日から彼女の心は変わって無いのだと実感した。








『好き…なんだ、柳の事が…』



そう告げられたのは、中学校の卒業式。

顔を紅潮させ、瞳を潤ませた碧はまるで別人のようだった。

何時も教室でふざけ合っていた、葉山碧では無い別の誰か。


友達だと、そう思っていたのは自分だけだったのか。

そう思うと、碧の告白は柳にとって酷い裏切りのように感じた。

例え、碧にそんなつもりが一切無いのだとしても。



『何で…、そんな事言うんだよ…』

『やな…』

『俺は、お前とずっと…友達で居たかったのに…』




その頃の柳は、恋愛なんてものは知らなくて。

碧の言葉を受け入れる事すら出来なかった。



『お前には…がっかりしたよ…』

『柳!』



彼女の言葉を聞く事も無く、柳はその場を離れた。

謝る事すらも許さずに。



高校は別々に進学した為、その日以来今日まで碧と言葉を交わす事は無かった。

通学する道は似ていたので、たまに姿を見掛ける事もあったが柳は無視を決め込んでいた。


当然だ、と思った。

碧の事を信頼していた自分を裏切ったのだから。



数ヶ月も経てば通学時間がずれたのか、碧の姿を見る事は無くなった。

それに加えて新しい友人や環境を手に入れた為、碧との思い出も徐々に薄れていった。



高校生にもなれば、柳にも思春期というものが訪れる。

周りの雰囲気に流されるまま彼女を作り、高校を卒業するまでには一通りの事は済ませた。

しかし、彼女との初めてを経験する度に脳裏を掠めるのは碧の事。


例えば、今キスしているのが碧だったら。

例えば、今抱いているのが碧だったら…


そんな事を考えてしまう自分に気付いた時、漸く柳は自分の碧に対する想いが恋だったのだと思い知った。

遅すぎた自覚は、後悔となり柳を蝕む。



謝りたいとは思っていた。

柳が謝れば、碧はきっと許してくれるだろう。

しかし、プライドが邪魔してそれは出来なかった。


そして何時しか、このまま碧の事を忘れてしまいたいと考えた。

碧の記憶からも消えてしまいたい、とも。




(…俺は…馬鹿だ…)



10年経っても碧は覚えていた。

手酷く傷付けた柳に謝罪する為に。




『ずっと…ね、柳に、謝りたかった…』




柳が謝罪するより先に、涙を浮かべながらそう言った彼女はあの頃のまま…

純粋で綺麗なままだった。


思わず手を伸ばし、彼女の髪に触れる。


その瞬間。

封じ込めていたはずの想いが、再び溢れ出していくのを柳は感じた。


こんなにも、まだ。

情けない程に焦がれている。

傷付けて突き放したのは自分なのに。





『誤解させるような態度をとってるのは、アンタだ…』



遊弦という男が、敵意を剥き出しにそんな言葉を吐き捨ててきた。

それは碧の代わりに、柳の不誠実を責め立てる言葉。

きっとあの男は、碧の事が好きなのだろう。


遊弦だけではない。

タクシー乗り場で一緒に居た男も、柳に対し威嚇するような態度で睨み付けてきた。

彼もまた、同じなのだろう。



当然だ。

あの暖かさに触れたのならば。

遅かれ早かれそうなるのは見えている。





「!」



そんな事をぼんやり考えていると、不意に携帯電話が震えだした。

画面を見れば彼女からの着信。

少し迷ってから、柳は通話ボタンを押した。




「もしもし…?」

『やっと出た!!何してたのよ!?』

「病院、行けって言ったのお前だろ…?」

『そうだけど!連絡しても返事無かったら不安じゃん…私は透耶の事心配して…』



押し付けがましい口調に、少しずつ苛々が募る。

違うのだ。

碧と彼女は何もかも。



『今どこ?』

「北竜駅…帰るんだよ、」

『帰っちゃうの…?寂しいよ…』



心配だ、と言う癖に結局彼女は自分の事しか考えて無い。

軽いとはいえ足を捻挫している自分に、遠回しにでも家まで来いと言うのだから。



『透耶…?』



甘えた声が厭らしく耳に纏わりつく。

考えれば考える程、何故自分がこの女と付き合っているのか解らなくなってくる。

気付いた時には、口は勝手に言葉を発していた。




「…れよう、」

『え?』

「別れよう…もうお前とは無理だ。」

『ちょっ…透耶っ!?』

「じゃあな、」




本当に欲しいのは、たった一人の存在。

無理矢理通話を終了させると、柳は携帯を握り締めた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ