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Square  作者: AkIrA
39/44

#39:奪還

勝ち誇った藤森の顔。

叶う事なら、全てをかなぐり捨ててしまいたい。

でも、彼女の幸せを願うなら…


そんな葛藤を嘲笑うかのように藤森の手が御堂の手に重ねられた。



「行きましょ…報告。」



覚悟を決めないといけない。

先程彼女をおぶった時、頭を擡げたほんの僅かな希望。

所詮儚いものだったのだ。

噛んだ唇からじわりと血が溢れた。

















「御堂さん…」


戻ってきた御堂の隣には藤森が立っていた。

二人の手は恋人の様に絡ませられている。

碧と目が合うと御堂は気まずそうに視線を逸らせた。



「ほら、貴志さん、早く。」

「!」



藤森が肘で御堂の腕をつついた。

御堂は少し躊躇った後、御堂へと視線を戻す。

それでも尚無言が続き、それに焦れた藤森が二人の間に体を滑り込ませた。



「もう…貴志さんたら照れてるんですか?」

「…ッ、」

「あのね、葉山…私たち結婚することになったの。」



藤森が厭らしい笑みを貼りつけて、碧を舐めるように見詰めた。



「これから、式場見に行くから。アンタは一人で帰って?」

「…」

「葉山…ごめん、な…」



御堂がそう続ける。

その表情は酷く暗い。

明らかにこれから結婚する人間の表情ではないだろう。




 ――御堂さんを…助けて下さい…碧さんにしか、無理だ…




遊弦の言葉を不意に思い出す。

そして全てが繋がっていく気がした。







「嘘…」

「え?」



振り返った藤森を碧は鋭く睨み付けた。

何時もとはまるで雰囲気が違う彼女に藤森も少したじろぐ。




「結婚なんて、嘘…御堂さんがアンタを選ぶはずない…!」

「は…?」

「自分を偽ってる人…好きにならない…ッ」



バシッと乾いた音が響く。

碧の頬がみるみるうちに赤くなっていく。

ジンジンと痛む頬を押えて、それでも碧は藤森を睨んでいた。



「どんな手を使っても、もうあの人はアタシの物…」

「何…」

「好きかどうかなんて問題じゃない…大事なのはあの人を隣りに置けるかどうかよ!」



『物』だとか『置く』だとか。

そんな単語が耳に届くたびに碧の怒りは膨れ上がっていく。

頬の痛みなんて問題じゃなかった。



「私は‥どれだけアンタに嫌がらせされても構わなかった…それで気が済むのなら、って‥でもこれは許せない…!アンタは御堂さんを何だと…」

「アクセサリーと一緒よ、これだけステータスの良い男を傍に置きたいのは当然でしょ?」

「な…」



藤森の言葉に碧は目を瞠った。

それに気を良くしたのか、藤森は更に言葉を重ねていく。



「だいたいアンタだって秋月とか、あの目つき悪い奴とか、御堂さんとか侍らせてるじゃない?誰かを選ぶ訳でも無くさ。」

「それは…ッ」

「見定めてるんでしょ?高物件かどうかを…本心は御堂さんを私に獲られそうになって焦ってるだけじゃない?」




カッとなって、手を振り上げる。

それを振り下ろそうとした瞬間、碧の手は止まった。

強い力で手首を掴まれた所為だ。




「葉山…婚約者…やねん、止めたって…?」

「御堂さん…」

「っ、はははっ、あはははは!ほらね、もうアンタの出る幕はないの!」



あの日。

レストランからの帰り道にみた、悲しい決意を秘めた瞳。

彼は全てを背負うつもりなのだ。




「…頼む…」

「私は大丈夫です…だから、御堂さんの本心を聞かせて欲しい…」

「!」



御堂の目に僅かだが、迷いが映る。

藤森もそれに気付いたのか、御堂の腕を自分の方へ引き寄せた。



「契約を反故にするんですか?」

「契約…?」

「アンタを護る為に、私の言いなりになる。貴志さんが持ち掛けた事よ?」



藤森と碧に挟まれ、御堂は苦虫を噛んだかのように表情を歪めた。

碧を掴んでいた手から力が抜けていく。



「私を、護る為に…?」

「……」



御堂は何も答えない。

いや、答えられないのだろう。

認めても、否定しても事態は好転しないのだから。




「倉庫でアンタが頭ぶつけた日に、ね」

「あの日…?」



だとしたら。

レストランに誘われた日には既に契約を結んでいたという事だ。


あの日に言われた一言一言が重みを増していく。









ーお前は一言ごめんなさい、って言えばええんや…



ー 俺は知っとるよ?葉山が幸せになれる方法。



ー最後に、ちゃんと言っときたかってん…… 碧の事が好きや…誰より。







「全部自分で背負って、私から離れるつもりだったんですか…?」




御堂が俯いた。

その仕草で、全てが肯定される。



「…わかりました…」



碧は御堂から離れた。

全ての合点がいったから。

ならばやる事は一つ。






「きゃぁっ…!?」


握り締めた拳で藤森を殴った。

短い悲鳴を上げて藤森が倒れる。

殴った手は痛みで痺れていたが、そんな事はどうでも良い。



これ程まで腹が立ったのは、新人歓迎会で遊弦が薬を盛られた時以来だ。

否、あの時よりも憤りを感じているかもしれない。

碧の眼光に藤森がたじろぐ。



「契約は破棄して」

「な…っ、」

「今まで通り、私を狙えば良い。御堂さんは関係無い。」

「今更ね…」



往生際悪く藤森が笑う。




「貴志さんがアンタを護りたい以上、契約は破棄出来ないわ!」




悔しいが、それは的を射ていた。

例え碧が良いと言っても、御堂はそれを了承しなければ意味が無い。




「御堂さんはアンタに片思いしてる…だから、私の物になるしかないの。」




藤森の言葉に碧は顔を上げた。




「片思い…?」

「だって、アンタ…貴志さんのこと恋愛対象で見てないじゃない」




見てない、というわけではない。

見ないようにしてた、のだ。

柳の存在がずっと引っ掛かっていたから。


しかしその問題は先程解決したばかり。

それは藤森にとって大きな誤算。




「それを、考える為に私は柳と別れた…」

「!」



御堂の目が大きく見開かれる。



「だから、御堂さんが犠牲になる理由が無い。」

「葉山…」



好きになるかはまだ解らない。

でも、前とは違う意味を持って向き合える確信があった。



「ほんまに…良いんか?好きで、いても…まだ、足掻いても…」



強く腕を引かれ抱き締められる。

弱々しく告げられた言葉に、鼓動が跳ねた。



「貴志さん!?どうなっても良いの!?」

「…御堂さん…」



碧を抱き締めたまま、御堂は頷いた。



「ええよ。傍に居れるなら…命懸けて護る。」

「…っ、馬鹿らしい!!」



悔しげに顔を歪めると藤森は捨て台詞を吐いて去っていった。

残された二人は顔を見合わせて笑う。



「…格好良かったで…葉山。」

「出過ぎた真似をして、すいません…」

「嬉しかった…」



もう一度抱き締められる。

感じる体温は暖かく碧を包み込んだ。



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