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Square  作者: AkIrA
33/44

#33:契約

夜の誰も居ないオフィス。

二つの影が向かい合う。



「来てくれたんですね、」



嬉しそうに彼女は笑った。

まるで反省の色が無い彼女に、少し背筋が寒くなるものを感じた。



「…約束やからな…」



手が伸びてきて、首に回される。

妖艶に笑う藤森の唇を、御堂は黙って受け入れた。



「どんな感じですか?大嫌いな奴の言いなりになるのって。」

「…」



御堂は何も答えない。

まるで心を殺してしまったかのように。

藤森は笑みを更に深めた。



「あは、つれないですねぇ…」

「勘違いすんなや…これは『契約』や。」

「はいはい。今後一切葉山には何もしない事…ですよね?」




あの日、病院へ見舞いに行った遊弦を見送った後。

御堂は藤森を呼び出した。

いくら碧を休ませたからといって、それはその場しのぎにしかならない。

根本的な所を抑えなければ、結局は同じだと考えたからだ。


幸いにも藤森の目的は御堂だった。

ならば答えは簡単だ。




『契約、せえへんか…?』

『契約?』

『今後一切、葉山に手を出さん…勿論お前の手下もや。』



藤森が御堂の意図を読み取り、ニヤリと笑った。



『そしたら、御堂さんは私のものになってくれるんですよね?』

『あぁ。俺のプライベートは全てお前にくれてやるわ』




『プライベート』と区切ったのは、せめてもの足掻きだ。

理解したのか、藤森は小さく肩を竦めた。




『良いですよ…じゃあ…』 



綺麗に彩られた指で、藤森は自分の唇を指す。



『契約、成立のしるしにキス…御堂さんからしてください。』

『…』



一瞬、碧の顔が頭に浮かび御堂は躊躇う。

それに気付いた藤森が鼻で笑った。




『…出来ないんですか?こんなの序の口ですよ?』

『…っ、』

『これから先、葉山を好きな限り…キスもセックスも私としか出来ない…そーゆう契約ですよね?』




碧を好きな限り。

報われない方程式だ。

しかし、これが最善の策だと思った。


意を決して御堂は藤森に口付ける。

その瞬間に自分の気持ちを全て封じ込める事を決めたのだ。













今も藤森の手は妖しく動き、御堂のネクタイを緩めていく。

「抱け」という事だろう。

逆らう事は出来ない。

御堂が藤森の腕を掴み、自分の方へ引き寄せた時。

急に反作用の力が働き、それが阻止された。





「何、してるんですか…?」

「…秋月、」




藤森を後ろへ引き剥がしたのは遊弦だった。

驚いたように目を丸くしている2人を、鋭い視線で彼は睨み付ける。

その視線につまらなさそうに髪を束ねると、藤森はオフィスを出て行った。




「お前、まだ残ってたんか…」

「携帯、忘れたんで取りに来ただけッスよ。」




遊弦の目が細められる。




「藤森に鞍替えッスか?」

「!?」



違う、と叫びたかった。

しかしそれは出来ない。

唇を噛み、御堂は視線を逸らした。




「御堂さんは…もっと利口だと思ってました…」

「…っ、さいわ…」




本当はこの選択が正しく無い、というのは御堂が一番解っていた。

しかし正しく無くても、碧の身を守れるなら良いと思ったのだ。




「俺には出来ない芸当っすよ…『身売り』なんて…」




嫌な言い方だが、それは的を射ていた。

御堂は僅かに眉を顰める。




「でも、そんなの…アイツを好きでいれないなら意味無いんじゃないですか?」




遊弦の言う事は一々正論だ。

しかしだからと言ってそれを漫然と受け取れる程若くはない。

ならば、これで良かったのだと自分に言い聞かせるしかないのだ。




「…後、10歳若かったら…お前みたいに足掻けたかもしれんな…」

「一生、藤森の奴隷になるつもりですか?」

「俺の身一つで解決するなら、構わん…」



そもそもあの日、彼女を最後に抱きしめて終わりにするつもりだったのだから。



「信じらんねぇ…それじゃああまりにもアンタが不幸だ…!」

「優しいなぁ、秋月は。ライバル1人減ってラッキー、くらい思っとけや。」

「…ッ、」



唇を噛みしめ、何か言いたげな目を遊弦は御堂に向ける。

首を振ってそれを制すると、御堂は遊弦の肩を押してオフィスから出て行った。

ゆっくりと閉まるドア。

残された遊弦はそれを思い切り殴りつけた。

大袈裟な音が、静かな空間にはやけに響いて聞こえた。








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