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Square  作者: AkIrA
29/44

#29:再会

無くした記憶と、新しく塗り替えられていく記憶。





『俺の方がいい男だって、碧さんが思うように!』



『碧の事が好きや…誰より。』





考えると頭が痛くなる。

答を出したくても出せない自分に嫌気がさす。

一人になった部屋で、碧は頭を抱えた。


涙が頬を伝い流れ落ちる。



遊弦の事も御堂の事も好きだ。

ずっと傍に居てくれた2人だから。


しかしそれが恋愛感情か、と問われれば解らない。


出ない答えを強要されているもどかしさに、息は詰まるばかりだ。

何より2人の時折見せる辛そうな表情が碧を余計に苦しめた。


深い闇に思考すら呑み込まれかけた時…




「?」




携帯電話の画面が明るくなった。

其処には『柳透耶』の文字。

聞き覚えのある名前だ。

御堂が口にしていた名前。

恐る恐る、碧は携帯電話を拾い耳元へ持ち上げた。




「…もしもし、」

『セージ…?』

「え…と、私…葉山碧…ですけど…」

『あ…!そっか…悪り、』




低めの声が慌てたように謝罪する。

その声に懐かしさを感じて碧は思わず目を閉じた。




「柳君…だよね?」

「君付けは止めてくれ、調子が狂う…」

「じゃあ、柳でいい?」

『あぁ、それで良い。』




落ち着く声…

この声は知っている。




『…葉山…明日、休みか?』

「うん…御堂さんが有給申請してくれたから、1週間休みだよ。」

『もし、さ…嫌じゃなければ、明日久しぶりに会わねえか?』




名前すら覚えていない、昔のクラスメイト。

そんな彼からの誘いは、普通ならば断っては然るべきなのだろう。

しかし碧にその選択肢は無かった。



「…良いよ。私も、柳に…会いたい…」

『そっか、良かった…じゃあ…明日10時頃迎えに行くから…』

「ん…」




通話を終了し、携帯電話を床に滑らす。

彼が何者なのかは解らないが、彼に会うことで何かを掴める気がした。



涙はもう止まっていた。




















「はよ…」

「おはよ、」



ほんの少しの気まずさを孕んだ空気。

それでも嫌な感じはしなくて、2人は顔を見合わせて笑った。




「柳は私を覚えてるんだよね…?」

「あぁ。」

「私が柳と行った所…もう一回連れて行って…」



思い出したいと、強く願った。

彼は自分にとって、とても大切な存在の筈だから。




「良いぜ…行こう…」

「ありがとう…」




車に乗れば、煙草の残り香が鼻を擽る。

ダッシュボードに無造作に置かれた煙草。

封の開いたそれに、そっと碧は触れてみた。




「悪りぃ、臭うか…?」

「ううん。嫌いじゃ無いから大丈夫。」




見覚えがある煙草の銘柄。

嗅いだことのある匂い。

誰かの部屋の光景が、碧の脳裏にちらりと浮かんだ。

予感は確信にかわっていく。



「私…柳の事だけ、忘れてるの?」

「…さぁな、」



ハンドルを握る柳の横顔が一瞬だけ哀しげに歪んだ。

その表情は肯定の意だろう。

碧は胸に濃く刻まれる疑問を真っ直ぐ柳にぶつけた。



「私と柳の関係って何…?」



信号で車が止まる。

車内に流れるのはラジオの音だけ。

暫くの沈黙の後、柳は碧に笑顔を向けた。



「友達、だ。」

「…」

「少し前に再会した。だから…良いんだ。お前が俺のことを忘れてても。」




良い、と言う彼の表情がまた一瞬哀しげに歪んだ。




「また、一からやり直せば良いだけだ。」

「柳…」

「だから、気に病む必要はねぇよ。」




信号が変わり再び車は動き出す。

しかし碧は、真っ直ぐ前を見詰める柳から目を逸らす事が出来なくなっていた。




「…ごめん、ね…」




ただ優しい彼が、悲しくて。

思い出せない自分に腹が立って。

色々な感情が混ざり、気が付けばそんな言葉が口をついて出てきた。




「謝んなよ…俺は、忘れてくれて良かったと思ってる…」

「…ん、で…?」

「やり直したい…って、ずっと思ってたから。あと…」




少しだけ、柳が言い淀む。

しかし覚悟を決めたのか、心なしかハンドルを握る手に力が込められた。








「お前が、何の負い目もなく俺を選んでくれるのか…それを知りたいと思ったから…」







柳の言葉は俄には理解し難い。

しかし、聞き流す事は出来なかった。


車内に再び降りた沈黙。

碧は何も答えることが出来ず、ただその横顔を見つめていた。

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