#23:決心と誓い
「待って下さい…!」
追い掛けて、エレベーターの前でその腕を捕まえた。
しかし、立ち止まった彼は勢い良く遊弦の手を振り払う。
「傍にいてやれよ…」
「…何、拗ねてんすか…」
「そうじゃねぇ!!アイツを置いてくんなって言ってんだよ…!」
強い眼光が遊弦を捉えた。
落ち込んでいる訳では無い。
悲しんでいる目でも無い。
「アイツを1人にすんな。泣かすな、不安にさせんな!」
「!」
「今の俺には出来ない事だ…だから、お前らがやれ…」
遊弦の胸倉を掴み、凄みを利かせる。
相変わらずの眼力だ。
しかし、此処で竦んではいけない。
遊弦は腹に力を入れた。
「アンタはどうすんの…?」
「俺は…俺のやり方でやる…さっき、アイツの顔を見て、決心がついた。」
「…どういう事…?」
「忘れられたなら新しく関係を築けば良いだけだ。それに…丁度良かったのかもしれない…」
「良かった…?」
柳が言い淀んだ。
少しだけ、瞳の奥が揺らぐ。
彼の隠せない不安を表しているかのようだ。
しかしそれは直ぐに消える。
「教えねぇよ、」
口元を歪め柳が笑う。
もう、これ以上語るつもりは無いようだ。
「分かりました…戻ります。」
「…泣かすなよ…絶対…」
「はい…」
エレベーターのドアが閉まる。
何だか差を見せ付けられた気分だった。
柳の方が自分よりずっと思慮深い。
我が身よりも、碧の事を真っ先に考えていたのだから。
「負けねぇ…」
降りていく階数表示を見詰め、遊弦は1人呟いた。
(昔の友達だよ、)
その笑顔が、何故か心に引っ掛かる。
作り笑いだと一目見て分かった。
何で分かったのかと問われれば解らないとしか言えないが。
「柳、透耶…」
あの鋭い目つきの男が恐らくそうなのだろう。
御堂も遊弦も彼の存在を知っているようだった。
碧の記憶には無いが、何処かで関わった筈なのだ。
でなければ、辻褄が合わない。
「碧さん!」
「遊弦…」
遊弦が自分の事を、『葉山さん』では無く『碧さん』と呼ぶようになったのは何時だろう。
小さな違和感は積み重なる。
「さっきの、返事なんですけど…」
「ぁ…うん、」
「一緒に、居ます…碧さんが望まなくなるまで…!」
真っ直ぐ伸ばされた手。
この手を取れば、何かが解る気がした。
「碧さんが望んでくれている間に、頑張りますから…」
「遊弦…」
「俺の方がいい男だって、碧さんが思うように!」
一方的な誓いであるが、それは有無を言わせない力を持って響く。
碧にはただ頷く事しか出来なかった。