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Square  作者: AkIrA
20/44

#20:失ったもの

藤森から受け取った鍵で、用具室のドアを開ける。

重い扉を開くと、黴臭い匂いが鼻をついた。

壁を探り、室内灯のスイッチを押す。




「葉山…?」



明るくなった室内。

その片隅に、ヒ-ルを履いた足が見えた。

慌てて御堂は駆け寄る。



「おい!?大丈夫か?!」



返事は無い。

抱き起こそうと、御堂は碧の首の後ろに手を差し入れた。



「…ッ、!」



ぬるり、とした感触に思わず手を離す。

離した右手に付いていたのは、紛れもなく血液。

嫌な想像が御堂の頭に浮かぶ。


過ぎる想像を頭を振って追い出し、ポケットに入っている携帯電話を取り出す。

震える手で御堂は交換台へと掛けた。





『はい、交換台です。』

「御堂や!怪我人が出た!至急、救急車の要請を頼む!」

『!、場所は?』

「B1、用具室や!」

『畏まりました!』



携帯電話を仕舞うと、碧の口元に耳を近付けた。

呼吸音はしっかりと聞こえている。

それに少し安堵を覚え、御堂は息を吐き出した。


しかし予断は許さない。

頭を打っているのは明らかなのだから、不用意に動かすのは危険だ。




守れなかった。

その事ばかりが御堂の頭を埋め尽くす。

碧がこうなってしまったのは、自分の所為だ。


嫉妬に狂う藤森を放置してしまった、自分の。




「ごめん…なぁ…、」



もっと早く決断すべきだったのだ。

碧から離れる事を。


何度も考えていた事だった。

嫉妬の対象になってしまった碧を救うには、離れるしかないと。


だが、出来なかった。

御堂自身が、碧から離れたくなかったから。 


彼女が虐められるなら護れば良いと思っていたし、その自信もあった。

なのに、現実は違った。

御堂が思う以上に、女というのは強かで計算高い。

彼女達は御堂の目を盗んでは、碧を傷付け続けた。




「頭では、解っとったんやけどな…それでも、アカンねん…」




自分が碧から離れれば、解決する問題だった。

しかしそれは出来なかった。




「俺…は、それでも、お前に居って欲しかってん…!」





目の、

手の、届く場所に。



恋人じゃなくても構わない。

ただ、その存在の傍に居たかった。




「俺の、所為やッ、」




今は祈るしか出来ない。

彼女の無事を。


救急隊が到着するまで、御堂は動かない碧の手をずっと握っていた。
























幸い軽い脳震盪だったらしく、碧の身体に異常は無かった。

家族と連絡が付かなかった為、代わりに大まかな説明を受ける。

大事をとって、今日1日は入院するようにと医師には言われた。 

もとより、暫くは会社を休ませるつもりだったのでこの提案は好都合だった。

これ以上彼女を危険な目に合わせる訳にはいかない。

上司としての責任だけでなく、男としてもだ。




ふ、と御堂は最も連絡をとらなければならない相手を思い出した。

今の彼女に一番必要な人物。

碧の携帯電話を一緒に持ってきた鞄の中から探す。

そして、『柳』という名前を探し当てた。

番号を表示させ、通話ボタンを押そうとした時…






「御堂、さ…ん?」

「葉山…!」




目を覚ましたらしい碧が、ぼんやりと御堂を見つめていた。




「良かった…!お前用具室で頭打って倒れててんで!」

「用具室…」

「意識戻って良かったわ…取り敢えず柳君に来て貰うわな?」

「え…?」




不思議そうに碧が首を傾げた。



「柳って、誰ですか…?」

「は…?」



御堂の手から携帯電話が滑り落ちる。

碧の言葉の意味を理解出来なかった。




「柳って…?」



繰り返されて漸くその言葉の意味を理解する。


記憶喪失。

それが今の彼女を表すのに一番適した言葉だった。


事もあろうか彼女が忘れてしまったのは、一番忘れたくないであろう人物。



どうする事も出来ず、御堂は唯その場に立ち尽くしていた。









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