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Square  作者: AkIrA
19/44

#19:嘘

「遅いな…」


時計を見上げて、御堂は呟く。

確かに、印刷を任せた資料は少ない量では無い。

それにしても、だ。



「御堂さん?」

「悪い、ちょっと席外すわ。」



嫌な予感に駆られ、御堂は部屋を飛び出した。

地下の印刷室に辿り着くと、規則正しくコピー機が駆動している。

それに少し安心して中を覗き込んだが…



「藤、森…?」

「あ、御堂さん!」



其処には碧では無く、藤森が立っていた。

しかも彼女が刷っている資料は、御堂が碧に任せたものだ。

疑問が頭を埋め尽くす。



「葉山さん、用事が有るからって私に押し付けて行ったんです。」

「葉山が…?」

「酷いですよねぇ?」



ニコニコと綺麗な笑顔で藤森がそう言う。

しかし、その言葉には違和感しか感じない。



「嘘、吐くなや…」

「え…?」

「葉山は頼まれた仕事を投げ出したりせぇへん。お前が…何かしたやろ?」




御堂の言葉に藤森の顔が歪む。




「御堂さんは、葉山を信用しすぎですよ…」

「それはアイツが信用に足るだけの事をしてきたからや。」

「御堂さんは葉山の事何も知らないじゃないですか!!あの女、秋月と手を繋いでたんですよ?」




詰め寄ってくる藤森の肩を掴み、御堂は視線を合わせた。

大きな目からは今にも泪が零れ落ちそうだ。




「そうやとしても、仕事とは別や。上司として、俺は葉山を信用してる。」

「上司?男として、の間違いじゃないんですか?」

「…否定はせんよ…好きな人間を信用出来ん奴に、俺はなりたくない。」




真っ直ぐ藤森を見詰め、諭すように話し掛ける。

居心地悪そうに、藤森が身を捩った。




「葉山がどんな奴でも、俺は自分の目で見たアイツに惚れたんや。」

「…っ、」

「頼むから教えてくれ…俺にお前を恨ませんといてくれ…」





顔を伏せた藤森が小さく『ずるいですよ』と呟いた。

スーツのポケットから取り出された小さな鍵。

それは地下倉庫の鍵だ。

震える手で藤森がそれを差し出す。

受け取ろうと御堂が手を伸ばした時、藤森が不意に顔を上げた。



「…嫌いに、ならない…で下さい…」

「藤森…」



絞り出された声はか細く頼りない。



「御堂さんに嫌われたら…私…っ、」

「…好いてくれることは嬉しいけどな…今の俺には、おまえの気持ちを汲んでやれるだけの器量が無いねん…」

「それでも、良いんです…私は…」

「ごめん…この話は葉山の無事を確認してからや。」







藤森の絡みつく視線を振り切って御堂は踵を返した。



その後ろ姿を見送ってから隠し持っていた目薬を指で遊ばせる。

中々手強い相手だ、と藤森は小さく舌打ちをした。

今までの男達は此処までやれば簡単に靡いたのだから。







「泣き落としも、駄目かぁ…」



次の手を打たなければならない。

藤森は蠱惑的な笑みを浮かべると、エレベーターへと足を進めた。







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