#18:嫉妬
食事が終わり、仕事へと戻る。
先程の御堂の件がある所為か心なしか皆緊張していた。
普段優しい人ほど怒らせると怖い、という事だ。
「葉山、悪いねんけどこの資料コピーしてきてもうてええかな?」
「あ、はい!」
御堂に頼まれて、碧は立ち上がる。
受け取ったのは、碧の代わりに柳が作ってくれた資料だ。
「アイツ、なかなかやるな。めっちゃ見易いわ。」
「…はい。」
「内容はお前が考えたんやろ?良く出来とる。」
御堂が笑う。
何を言ったわけでも無いのに、ちゃんと分かってくれている。
御堂のこういう所が、良い上司たる理由なのだろうと碧は思った。
碧は深く御堂に頭を下げると地下の印刷室へと向かった。
「良い身分ね…」
碧が振り返ると、壁に凭れ掛かるようにして藤森が立っていた。
自然と体が強張る。
「藤森、さ…」
「護られて生きていくしか能が無いのかしら?」
長いパーマがかかった髪が揺れると香水の匂いが鼻につく。
彼女は頭の先から爪の先まで完璧だ。
しかしその完璧さが逆に嘘くさくもある。
「私、そんなつもりは…」
「そうやって弱いふりして、男に護ってもらうのね。御堂さんや秋月が可哀想よ…」
「っ、」
自分の一番ずるい部分を浮き彫りにされ、碧は二の句を告げる事が出来なかった。
そんな碧を鼻で笑うと、藤森はその体を突き飛ばした。
急にそうされた事で碧の体は呆気なく後ろへ倒れた。
「…っ、」
激しい痛みが後頭部に走る。
目を開けると、視界がぼやけていた。
「そこで大人しくしてなさい。」
「‥う、あ…」
痛む頭を抑えて立ち上がろうとした碧の前でドアが閉まった。
ご丁寧に鍵まで掛けて。
「嘘、でしょ…」
独りごちて、碧は溜め息を吐き出した。
入社した時から、藤森の御堂に対する執着は凄かった。
それ程まで人を愛する彼女を碧は羨ましいとさえ感じていた。
しかし、此処までくると流石に愛情を履き違えている。
後頭部を押さえつけている手には生暖かい感触。
確かめるまでもない。
「透、耶…」
薄れていく意識の中、最後に浮かんだのは柳の顔だった。