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Square  作者: AkIrA
17/44

#17:優しさ

 


「そっかあ、良かったなぁ」


にこにこと笑いながら、御堂が碧の頭を撫でている。

人目のある社員食堂でそんな事をされると、女子社員の視線が酷く痛い。

居心地悪そうに視線を泳がせた碧に気付いたのは、目の前でうどんを啜っていた遊弦だった。



「御堂さん、手。」

「あぁ、悪い悪い。秋月、男の嫉妬は見苦しいでー?」

「良いんスよ、見苦しくても。碧さんが結婚するまで諦めないって決めたんですから。」

「ま、秋月っぽいな。」

「そうやって大人ぶるのは、御堂さんっぽいですよね?」

「…大人、なぁ…」



左に御堂、正面に遊弦が座っている。

あの日からどちらか一人が必ず碧の傍に居るのだ。

お蔭で直接的な虐めは無くなったが、陰湿な視線や陰口は相変わらずだ。

周りが気になって、美味しいと有名なAランチの味も分からない。



『また、侍らしてるよー、』

『いかにも姫って感じだよね?』

『うざー…』



気にしてはいけない。

思えば思うほど、言葉は耳に突き刺さる。

食欲すら無くなってきて、箸をそっとお盆の上に返した。

その時、ガタンと碧の左側で椅子が倒れた。





「…ッ、じゃかあしいんじゃ!!」





食堂の誰もが動きを止めるほどの大音量で叫んだのは、御堂だった。





「いい加減にさらせよ、お前ら!!虐めたり陰口叩いたりするしか能が無いんか!?あぁ!?」

「ちょ、御堂さ…」

「気付いてないとでも思っとるんか!?何でもかんでも葉山に仕事押し付けよってからに…」



普段の御堂とは似ても似つかない。

怒りを露わにして怒鳴り散らす。



「そんな女が俺はいっちゃん嫌いやねん!」

「ッ!」



女子社員の真ん中にいた藤森の顔が醜く歪む。

他の女子社員は今にも泣きだしそうだ。



「今回、葉山に押し付けた分は目エ瞑ってやるわ…でも今度同じ事しよったら、俺にも考えがあるからな…」



大阪訛りと低い声で御堂が周囲を睨み付ける。

すると蜘蛛の子を散らすように食堂にいた女子社員達は逃げて行った。

荒くなった息を整え、御堂は椅子を起こして再び座りなおした。



「スマンな。大人で居れんかった。」


少しバツが悪そうに御堂が苦笑いした。

碧も遊弦も目を丸くして、そんな御堂を見詰めている。

先に動き出したのは遊弦の方だった。

口元を手で押さえ、笑いを堪えている。



「や、すっきりしましたよ。ちょっと御堂さん見直した。」

「ちょっとかい。もっと見直せや!」



御堂の台詞に今度こそ遊弦が吹き出した。

そんな何時も通りの掛け合いに、漸く碧の表情も緩む。



「あーぁ…部長の説教やなぁ…」

「名誉の負傷ッスよ。」

「阿呆。別に負傷してへんわ。」

「…ぁ、私の所為で…」



再び御堂の手が碧の頭を撫でる。

碧が其方を向くと、優しく微笑む御堂と目が合った。

先程まで怒鳴り散らしていた彼とはまるで別人だ。



「あんな、葉山…お前の『所為』やないねん。」

「御堂…さ、」

「お前の『為』に俺がしたかったことや。」

「そうそう。御堂さんがいかなかったら、俺がいってたとこッスよ?」

「良かったな。お前がいっとったら説教じゃ済まへんわ。」



気持ちに応える事が出来ない自分に、何処までも二人は優しい。

しかし逆に無条件に与えられる優しさが辛くもある。


『ごめんなさい』、と言いそうになってしまう口を碧は咄嗟に押えた。

謝罪の言葉をこの場で述べるのは、二人にとって失礼だ。

じゃあ、何を言えばいいのか。

押えていた手を外し、碧は二人を見詰めた。



「ありがとうございます…御堂さん。遊弦も、ありがとう。」



その言葉に、御堂も遊弦も嬉しそうに微笑んだ。



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