#13:伝わる
「どういう事…?」
「一昨日言った通りだ。お前とはもう無理なんだ…」
「それじゃ納得いかないの!」
これ程までに詠美が食い下がってくるとは予想していなかった。
しかも此処で下手に彼女を刺激してしまえば、碧に危害が及ぶ可能性がある。
それだけは何としてでも避けたい。
「お前と別れようと思ったのは、俺の個人的な事情だ。アイツは関係ない。」
「でも、透耶はあの女の事好きなんでしょ?」
「…だとしても、お前には関係ない。」
睨み付ければ、びくりと詠美が身を竦めた。
目つきの悪さには自信がある。
「俺を怨むのは良いけど…碧に手ェ出したら許さねぇらから…」
「透耶…」
唇を噛締め、最後に柳を一睨みすると詠美は踵を返して帰って行った。
理解してくれたかは分からないが取り敢えず当面の難局は去ったかのように思えた。
柳は息を吐き出し、落ち着きを取り戻すと急に待たせている碧の事が気にかかった。
急いで玄関のドアを開けようとノブを回す。
「!」
勢いよくドアを引けば、其処には茫然と立っている碧がいた。
聞かれてしまった、と思い至り柳は頭を抱える。
はっきり『好きだ』と言った訳ではないが、詠美の質問に否定はしなかったのだから言ってしまったも同然だ。
内に秘めていたかった気持ちを、一番聞かれたくない相手に聞かれてしまったのだ。
それにも拘らず。
次に口を開く時碧が何を言うのか、そればかりを気にしている。
死刑宣告を待つ死刑囚の気持ちだ。
「柳…」
「!」
意図せずびくり、と肩が震える。
見遣った碧の目は驚くほど真っ直ぐで、柳は思わず息を呑んだ。
「…私は…今でも、柳の事が、好き…」
「セージ…」
「今度は、間違って…無い…?」
抱き締めても、良いのだろうか。
この腕に彼女を。
恐る恐る手を伸ばし、碧を引き寄せた。
耳の後ろで血が脈打つ音が響いている。
「言っても、良いのか…?」
「言って、くれるの?」
碧がふわりと笑った。
多くは望まない、とそう思っていたはずなのに。
手に入りそうだと思った瞬間自分がどんどん浅ましくなっていく。
それでも、彼女が欲しいのだと。
その笑顔が自分だけのものであって欲しいのだと自覚した。
「碧…が、好きだ…」
その一言を言うのに、何年遠回りしたのか。
考えれば気が遠くなる年月だ。
それでも変わらないで居てくれた碧を、今度こそ離したくないと思った。
吐き出された言葉にまた碧が微笑む。
今度こそ柳は、彼女を腕の中にきつく抱き締めた。