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ハニーアンドミルク  作者: 麦子
1/8

月曜日

最近夜になると、どこからか金木犀の甘い匂いと共に、不安定で下手くそなメロディーが聞こえてくるようになった。





意味もなくふらりと、散歩というものを久しぶりにしてみた。夕焼けの色が、仕事とはいえ一日中パソコン漬けになっていた目にじんわりとやさしい。


河川敷をのっそりと歩いていると、前方からものすごいスピードで走ってくる女を視界にとらえた。前のめりになり、長い黒髪を振り乱し、一心不乱にこちらに走ってくるさまはまるでいのししみたいである。

びゅん!と一瞬の風がうまれる。女が俺の横を通り過ぎたらしい。その直後「ぐえっ」という、カエルの鳴き声のような声と何かが倒れたような音がした。

おそるおそる女の走り去っていった方向へ振り返ってみると、盛大にすっ転んだあとのようだった。地面にうつ伏せに倒れこんでいる女のスカートは破れていて、パンツが丸見えだった。(へえ、白か)…思わず呑気にその光景を眺めてしまう自分に喝をいれる。違うだろう、ここは紳士らしく「大丈夫ですか、怪我はないですか?」と倒れた彼女を気づかいつつ、そっと起こしてあげるべき場面であって、どこぞの中学生みたいに「やっりぃ、白じゃん」などと心の中でガッツポーズをとっていい場面ではない。恥を知れ自分!紳士になりきれ自分!



「あの、だ…」

「ああっ、もう!歩きにくい!」



紳士気取りの俺が声をかける前に、女は自分の力で華麗に立ち上がり、泥がついたヒールを思い切り川に向かって投げ捨てた。…俺の、伸ばしかけた右手がむなしい。



「夕日のばっかやろーー!!」



ベタベタな青春ドラマでもなかなか拝めない青春くさいセリフを叫びながら、ボロボロになったリクルートスーツを華麗に着こなしている彼女は裸足で駆け出していった。…白のパンツを堂々と見せつけながら。



「そういや、最近まともに大声で叫んでないかも」



そう思うと、ボロボロになりながら走って転んで立ち上がって恥ずかしげもなく大声を出していた彼女がとてもかっこよく感じられた。俺もあんな風にがむしゃらに生きてみたいものです。



世の中、まだまだ捨てたもんじゃねえなと夕日を見て黄昏ていた俺の数メートル先で、女が再び盛大にすっ転んでいたがあえて見ないフリをした。




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