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魑魅魍魎百鬼夜行

人外×BLが大好物です。


妖怪とか生霊とか人ならざる者が出てくる、ドタバタ系のBLが読みたくなったので、自分で書くことにしました。


妖怪がわちゃわちゃしてる横で、本人たちもわちゃわちゃしてます。


気軽にお楽しみください。

「本日付けでこちらに異動となりました、縁 糸(えにし いと)と申します。早く環境に慣れて皆様と一緒に楽しく仕事ができるように頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします」


部長に連れられ部内に入ってきた男が、元気よく深々と頭を下げる。

同僚たちが大きな拍手を送る中、俺はただただ茫然と縁 糸の背後に蠢く魑魅魍魎に戦慄していた。


ー出社したときからビル全体に禍々しい気が充満しとると思ったら、お前か!!そこだけ時空いがんどんか!?


通常、一般的な魑魅魍魎は太陽などの陽属性に弱い。だから朝日とともに薄れていくのが俺的解釈なのだが、清々しい朝に似つかわしくない量のソレが、縁 糸の背後にいた。


部長に案内され移動する縁 糸の後ろを魑魅魍魎がずるずると付いていく。

さながら百鬼夜行のようだ。

ただ、本物の百鬼夜行のように、見るもの近づくものに害を成すようなもんではないようだ。周囲にはなんの影響もなく、やつらの興味は縁 糸にしか向けられていない。そこがさらに異様だ。

その先頭にいるやつの異様さも際立っている。真っ赤な顔で凄まじい形相の筋骨隆々なそいつだけが、有耶無耶な造形の魑魅魍魎の中、ハッキリした体を成している。鬼や閻魔といったものを連想させると言えば、想像しやすいだろうか。

そいつの影響か、縁 糸にベッタリくっついている魑魅魍魎はいない。一歩間を置いて連なっている。


俺がよく目にする類のこういう輩は、どちらかというと人にベッタリ貼り付いていることが多いのだ。だからこそ実際に憑かれた人には影響が及びやすい。所謂、取り憑かれた状態の人は、どこか疲れて見えたり、目が虚ろだったりすることが多い。魑魅魍魎の数が多かったり、憑かれてる年数が長かったりするとそれに比例する。

それに比べて、貼り付く魑魅魍魎がいないからか、縁 糸にはその影響が出てないように見て取れる。元気溌剌という言葉が似合う、屈託ない笑顔で同僚たちに挨拶して回っている。視界に入る情報と縁 糸の人物像のちぐはぐさが余計に俺を混乱させているのだ。


ーえぇぇえぇ???怖い怖い怖い。なんなんあいつ。あんなもんこの世におってええんか!?触らぬ神に祟りなしってまさにこのことやろ!?


動揺しすぎて立ち尽くす俺の前にひとりづつ紹介して回っている部長が縁 糸を連れてくる。


「縁くん、こいつは斎くんや。歳も近いやろうから、いろいろ聞いたらええぞ。な!斎!頼むで!」


バシバシと豪快に俺の背中を部長が叩く。この人は力加減がいつもバグっている。


「斎さん、これからよろしくお願いします」


にっこり笑う縁 糸の後ろで、目を引ん剥き歯をむき出しにした凄い形相のあいつが俺をマジマジ見下ろしてくる。明らかに人ならざるものだ。


―対比ヤバすぎちゃうか…


近づくと余計に筋骨隆々さと体躯のでかさに背筋が凍る。


―やっべぇ、、、これ絶対気づいたら終わるやつやん。


「・・・・・・・・・斎《いつき》、ヨシ、です。よ、ろしく。」


首からぶら下げている顔写真と氏名の書かれた社員証を見せつつ、ギリギリの自己紹介だけして、後ろのやつには目もくれず、必死に愛想笑いをつくりだす。


「斎、ヨシ、、、カタカナなんだ、変わった名前だね」


マジマジと社員証を見て縁 糸がぽつりと呟く。


―いや、お前の名前も十分変わってる!!


「縁くんの名前も十分変わっとるがな!!」


部長との突っ込みが心の中でシンクロした。


「えぇ?そうですかぁ?斎さんの方が変わってますって~」


がははと部長が笑い、縁 糸が朗らかに笑い、聞いていた同僚からもそこかしこでクスクスと笑いが生じている。


それだけ見れば、とても和やかな良い職場に映るだろう。

いや、良い職場なのだ、本当に。3年前のブラック企業からの転職を頑張った俺を褒めてやりたいくらいの人間関係良好なホワイト企業なのだ。


そこに不穏で歪な気を連れ込んだ縁 糸に、この環境をめちゃくちゃにされてしまうのではないかと戦々恐々でもあるのだ。


部長は次の同僚を縁 糸に紹介している。

俺の横を通り過ぎるとき、先頭のあいつはビシバシ突き刺さる視線を俺に送ってきたが、最後まで無視を決め込んだ。


―そう、俺は気づいてない…気づいてなんてないねん…関わってたまるかっっ


先頭のあいつ以外は、俺には眼中にもないようで、気持ち悪いぐらいの執着を縁 糸に向けている。


とりあえずの影響はないことを確認して、気を取り直すと仕事に取り掛かる。




物心ついたころにはすでに、人ならざる者が見えていた。

そういう家系でもあったことから、自己防衛方法も教え込まれ、スルースキルなんかは自然と身についた。

関わらない、気づかない、踏み込まない、それが俺の決めたルール。

関わって踏み込んでしまった結果、今までにいろいろと大変なこともあった。

そこから得た教訓でもある。


―けど、あんなん気にするなって方が無理ちゃうんか…えぐいて…


午前中は、挨拶回りや資料の場所やシステムの使い方なんかの説明を受けていた縁の周りから、昼にはだいぶ魑魅魍魎のたぐいは減っていた。


―いや、普通はだいたい消えるんやって…おっても薄っすら存在してんなぁ、ぐらいになるんやって…


そして、日が沈むとともにまた力が増してくる。魑魅魍魎とはそういうものだ。


―やのに、なんでお前はくっきりはっきりおんねん!!


「一緒にお昼いいですか?」


手に財布を握りしめて、俺に声を掛けてきた縁の後ろに鬼の形相のそいつだけは鎮座していた。


―きっとこれは断ったらアカンやつ……ここで逃げたら気取られるっっ、、てか、なんで俺に声掛けるかなぁ!?他にもおるやろ!?


「あ、はい、、、、」


平静を装って財布を手に取り食堂へ向かって歩き出す。



「オレ、今年27歳なんですけど、斎さんっていくつなんですか?って、聞いてもいいですかね?」


人好きする表情と声と聴き方から、縁の人柄が見て取れる。

上司からも同僚からも慕われそうな雰囲気だ。


「あ~、俺も今年27っすね」


「そうなんだ!タメじゃん!あっ、えっと、じゃあ敬語なしで話してもいい???オレ、敬語って苦手で、、あ、でも職場じゃ敬語の方がいいって人もいるか…斎さん、ここでは先輩だし、、」


「いや、別に俺は気にせんけど。てか、俺中途やから、縁さんのがこの会社でいうたら先輩やし」


「え、ホント?やったぁ、じゃあじゃあ、これからはタメ語で話そっ、異動前もタメいなくてさぁ、なんか嬉しいかも♪ありがとっ♪」


正面に座っている縁は、見るからにウキウキといった感じでご飯を口に運ぶ。


―え、、かゎ、、、、


「んぐっっ、ゴホゴホッッ」

「え!?なに、大丈夫?のどに詰まった???」


いろんな方向から刺さった矢を、心象内の俺が抜きながら、現実世界の俺はぐびぐびと水を飲み干す。


―危ねぇ…標準語の破壊力半端ねぇ…


混じりけない純粋な言葉に射抜かれた。生まれてこの方、関西圏を出たことのない俺には、ウケ狙いや

ボケのない言葉の応酬に免疫がないのだ。家族やツレにこのタイプはいない。


―素でこんなこと言ってくるやつおるんや!?こんなん女にやられたらイチコロやろっ、男でこの破壊力やで?


おろおろと心配している縁に、『大丈夫』と手で合図を送り、ふぅっと息を整える。


「平気?」

「お、おぅ…」


伺うように小首を傾げる縁。小動物のような童顔な顔つきも相まって、仕草や表情が可愛さを演出しているようにしか思えない。関東の男はこういうのが多いのだろうか。今まで転勤してきたのは上の世代が多かったし、こうして絡む機会も少なかったからどう接するのが良いのか判断に迷う。


その後はこの会社のことや、縁の異動前の職場のことなんかを他愛もなく話し、昼休憩は終わった。

その間ずっと、縁の後ろのあいつは俺を凝視していましたよ、ええ。それはもう気味の悪いほどに静かにずっと。気づかない選手権を一人黙々とチャレンジした気分だ。今回は俺の勝ちでいいだろう。
















初回から魑魅魍魎まみれです。

そしてヨシはまだ何も始まっていない、始まるわけがないと思っています。

……読者の皆様はどうぞ温かい目で見守ってやってくださいw


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