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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

骨の胃

掲載日:2026/06/24

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 ぐっ、ぐっ……ふう、やっと呑み込めた。

 いくつになっても、のどに小骨がつっかえる感覚って慣れないねえ。ひょっとしたら、このまま取れないんじゃないか、と不安を抱えてしまう圧迫感。味わわずに済むなら、そうしたいところさ。

 骨が詰まった時の対処法として、よく聞くところがご飯をかまずに呑み込むことだろう。茶碗に盛ったご飯をが~っとかき込むのは、ある種の様式美すら感じられる。まあ、タイとかの固くて太いものの場合は、無理せず病院にいったほうがいいかもしれないけれどね……。

 これらは滅多に起こらないと珍しがられるし、しょっちゅう起こる人からすれば怖かったりうっとおしかったりして、印象は安定しない。ほかの事象にもいえることだけど、頻繁に起こるってことは何かしら条件が整っちゃっているのかなあ。

 単なるサイズや衰えみたいな、わかりやすいものじゃなく、特殊なものもさ。

 以前に、友達が話していたケースなのだけど、聞いてみないか?


 友達の家では、昔から朝食に魚が出るのがお約束だった。

 ご飯に味噌汁、卵焼きとのコンビネーション。定番になるだけあって、朝スタートするのに要る栄養が整っている。

 けれども、友達はそれがあまり好きではなかった。

 別に料理そのものは構わないのだけれど、魚の骨がくせものだったからだ。

 彼ののどは、よく骨がつかえてしまう。その日は鮭の切り身で、骨は事前に、入念に外したはずなんだ。それがひとかけ、ふたかけとかじっていき、いざ嚥下しようとしたところで。


 のど奥に、ひっかかりを覚える。

 身の部分だけがするりと落ちるも、そこから先はツバを呑み込むたびに拭えない違和感が、のどを刺激してくる。

 これが一度の食事で、一度だけならばご飯をかきこめば済む話だったけれども、このときは切り身をすべて食べ終わるまで、実に三回ものどへ詰まることに。三度目はご飯が足りず、流し込むためだけにおかわりを頼む羽目になった。


「……あんた、ちょっとのどを見せてごらん。あごを上げればいい」


 三度目の、ややきつめの嚥下を成し遂げたあと、友達は母親にそういわれたらしい。

 指示された通りに上向いて、しばし待つ。すると母親から、手鏡を渡されたうえで、うまく鏡を見るように指示される。

 どうにか下目づかいをしてみる鏡の表面には、真っ赤に腫れた自分ののどぼとけあたりが映っていた。けれど手で触れてみても、熱らしい熱は感じないし、異様なざらつきのたぐいもなかったらしい。


「これは……今日はあんた、お腹の調子が悪くなるかもしれないね」


 母親いわく、「骨の胃」になっている可能性があるという。

 病気かといわれると、判断に困るようなまれな現象。本人の意思とは関係なく、身体が骨に対して過敏になる現象なのだという。それが起こると、普段なら気にもならない小さい骨たちすらも身体が反応してしまう。

 その原因は不明点も多いのだけど、ひとつ推奨されていることがある。

 そうなっている間は手でお腹をおさえたり、なでたりすることは控えること。

 これを破った場合は、何が起こるか分からない、と。


 話を聞いた限りでは、とても簡単な話のように、友達には思えたそうだ。

 けれども、その日の学校給食の時間。これまたブリの照り焼きが出てきて、細心の注意を払って骨らしきものがないか確かめ、食べきったというのに。

 ごちそうさまの挨拶を終えてから、ふとのどの奥へ骨の引っ掛かりを感じたらしい。

 ご飯はもうない。できることといえば、米の代わりに水の勢いに頼るくらいで、廊下の水飲み場でお腹がタプタプになるかと思うくらい、水をかき込んだそうだ。

 直後にぐるぐるとお腹が鳴り出し、トイレの個室へ駆け込んだはいいが音はやまず。便座へストンと腰を下ろしてズボンを下げるや、ついお腹へ手をやってさすってしまったのだとか。


 とたん。

 さすっていた手の人差し指と中指の間にある、服の生地がスパンと裂けたんだ。

 そこに刃物もなにもなく、ひとりでに切れたとしか思えない。さらには、その下からのぞくお腹にも一文字の切り傷が。

 でも、そこから顔を出したのは血じゃなかった。黄色みを帯びた透明な液体、しかもそれに乗って、ぽろぽろと外へ連なって出てくるものがある。

 魚の骨だ。その長さ、細さ、今朝にも取り除いた部位たちとそっくりのいで立ちでもって、次々にトイレの水の中へ吸い込まれていく。

 それらがすべて出きって、腹の傷がひとりでに閉じてしまうまで、およそ5秒程度。あまりのことで友達はとっさに反応ができなかったという。

 けれども骨たちが吸い込まれていった洋式便座は、がぼがぼ音を立てたかと思うと、溜まっていた水が、いったん奥へすっかり引っ込んでしまったんだ。

 そこからひと呼吸おいて、一気にトイレの中身が逆流。その日、男子トイレは大惨事となり掃除に力を入れられることになった。そのほぼ中心地にいた友達もまた、さんざんな目に遭ったそうな。


 骨の胃の現象、いまだに理解が及ばないことが多いらしい。

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