表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/18

第六章:マニンの刻印

「……そんなの、ありえない。俺が……」

「落ち着いて」セレーネはすぐに言葉を挟んだ。

「今は深く考えないで。あなたはあなたのままよ。ただ、長いあいだ眠っていた“もう一つの側面”に気づいただけ」彼女は穏やかに微笑んだ。

「安心して。私は“今のあなた”が必要なの」そのとき、クリスティーンが一歩前に出た。

「でも、どうしてあなたが介入したの?どうしてあの場にいたの?……助けてくれたことには心から感謝してる。でも、疑問は残るわ」その口調には、まだ拭いきれない警戒心が滲んでいた。

「昨夜、悪夢を見たの。私は闇の中、何もない虚無に閉じ込められていた。そこで、ずっとあなたの名前を叫んでいた――アレックス、と。あなたが走り続けているのが見えた。でも、どれだけ走っても私のところには辿り着けなかった。そして……エテルノを見た瞬間、あなたは消えてしまったの」

「アレックスの夢と同じだな……」と、アンドリューが呟いた。

「私たちが出会い、そしてあなたたちをマニンから救うのは、最初から決まっていたのよ。目を覚ました直後、私はすぐにポータルを開いて、この場所を探し出した。そして、その予知夢とあなたの存在だけを頼りに、あなたの大学の前へと転移したの」セレーネは静かに語り続ける。

「私は長い間、あの怪物たちを追ってきた。だからこそ、直感に従ったの。

でも、あなたたちの学校に入るのは簡単じゃなかった。まるで結界のような“封鎖”があって、しばらく扉は開かなかったの。数分後にようやく入れたけれど……今思えば、マニンを弱体化させたのは、あなたよ、アレックス」

「本当に……ありがとう」アレックスは心からそう言った。恐怖は消えていないが、好奇心も抑えきれなかった。

「じゃあ、君は一人でエテルノを狩っているのか?」

「いいえ、私一人じゃないわ」セレーネは首を横に振った。

「世界中に、エテルノを追跡し、討伐することに人生を捧げている組織や集団が存在する。私たちの使命は、彼らがなぜ目覚めたのか、その理由を突き止め、対抗する術を見つけること。これは戦争よ。そして、犠牲者は数えきれないほどいる」一瞬、沈黙が落ちた。

「あなたたちは……彼らと直接遭遇して、生き延びた最初の人間なの」

「……少なくとも、全員ではないけどな」

アレックスはそう言って、ベッドに横たわるルーベンへと視線を落とした。

「まだ終わったわけじゃないわ」セレーネははっきりと言った。

「助けられる可能性は、ほんのわずかだけど存在する。ただし、とても困難よ。

彼の“奪われた心”を見つけ出し、元の場所へ戻さなければならない」その言葉を聞いた瞬間、

アレックスの瞳に、再び希望の光が宿った。

「とても危険になるわ。正直、私自身こんなことをした経験は一度もない。それでも、試す価値はある。でも――あなたたちは来られない」その最後の一言に、部屋の空気が一気に凍りついた。

「何だって? いや、君は分かっていない」アレックスは強い口調で言った。

「ルーベンは俺の大切な友達だ。こんな状態になったのは、俺のせいでもある。置いていくなんてできない」他の二人も、迷いなくうなずいた。

「無理よ」セレーネはきっぱりと言い切った。

「マニンは、あなたたちに“刻印”を残している。あなたたち自身だけじゃない、あなたたちが大切に思うすべての人間が危険にさらされるわ。彼は、人に触れた瞬間――たとえほんの一秒でも――その心の中の情報をすべて読み取る。居場所、記憶、愛する人……何もかもを」重い沈黙の中、彼女は続ける。

「その影響を完全に断ち切る唯一の方法は、“守りたい記憶を消すこと”。覚えていなければ、彼は知ることができない。もし、この使命を続けると決めたなら……あなたたちは、家族や友人の記憶から、自分たちの存在を消さなければならない」アレックスたちは息を呑んだ。

「あなたたちは彼らを覚えたまま。でも、彼らはあなたたちを忘れる。そうすれば、記憶の繋がりは断たれ、彼らは安全になる。その代わり――すべてが変わるわ。家族も、友人も、これまでの人生も失う。あなたたちは追われる身となり、逃亡者として生きることになる」セレーネは一度、ルーベンに視線を向けた。

「よく考えて。ルーベンは、ひとまず私が責任を持って預かる。彼は安全よ」その言葉とともに、部屋に冷たい沈黙が落ちた。

誰も口を開けなかった。何が正しいのか、何を選ぶべきなのか―― 答えは、あまりにも重かった。

葛藤。その選択は、あまりにも重要だった。その瞬間、彼らは二つの道の前に立っていた。家族とこれまでの人生の安全を選ぶか、それとも友情のために危険と未知を選ぶか。前者を選べば、起こったすべての出来事、ルーベンのこと、そしてマニンに関わるすべてを忘れなければならない。後者を選べば、これまでの彼らの人生は、すべての人の記憶から消え去り、彼らの存在を示すあらゆる証は完全に抹消される。それは、非常に困難な決断だった。セレーネは彼らを残し、深く考えるための時間と、最低限のプライバシーを与えるためにその場を離れた。「どうすればいいの? 私、混乱してる。ルーベンを見捨てるなんてできない。でも……私は全部を失うなんて無理。家族も、必死に築いてきたものも、未来も……諦められない!」

クリスティーンは激しく葛藤していた。どうするべきか、答えが出せずにいた。アンドリューは彼女のそばに寄り、少しでも慰めようとしたが、彼自身の状況も決して楽ではなかった。アレックスは部屋の隅に身を置き、仲間たち全員を見つめていた。

「全部、俺のせいだ! 俺がいなければ、こんなことにはならなかった。ルーベンも無事だったし、みんな幸せでいられたはずだ」悲しみはなかった。ただ、内側から怒りが膨れ上がっていくのを感じていた。

自分自身への怒り、エターナルへの怒り、そして世界への怒り。彼は、もう後戻りできない一線に近づいていた。マニンを殺したい。ただそれだけだった。叩き潰し、消し去りたい。彼が欲していたのは、復讐だった。数分の間、誰も口を開かなかった。沈黙の中で、それぞれが思考を巡らせていた。

だが、もはや決断の時は来ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ