召喚されたのは、大福ですか?
「うう……目が、目がぁ……」
「龍左衛門様! ご無事ですか!?」
坑道を埋め尽くした閃光が収まり、私はチカチカする視界をこすりながら身を起こした。
隣では柴さんが、まだ見えない敵を警戒して刀を構えながら私を庇っている。さすがだ。
「だ、大丈夫だ。それより、召喚は!? 俺の最強の眷属は!?」
私は期待に胸を膨らませ、光の中心地――坑道の開けた場所の中央へと視線を向けた。
そこには、私の命令に従い、異界より現れし「機体」が鎮座しているはずだ。
ドラゴンか? 鋼鉄の巨人か? それとも伝説の鬼神か?
「……は?」
「……なんですか、あれは」
私と柴さんの声が重なった。
そこにいたのは、ドラゴンでも巨人でもなかった。
大きさは、酒樽くらいだろうか。
色は純白。表面はつるりとしていて、少し柔らかそうに見える。
全体的なフォルムは、完璧な球体というよりは、重力に負けて少し潰れたような、愛嬌のある丸み。
一言で言えば――。
「……でっかい、大福?」
そう、そこには「白いポテッとしたまるこい物体」が、ちょこんと置かれていたのだ。
威圧感ゼロ。神々しさゼロ。なんなら少し美味しそうだ。
「こ、これが俺の須儀琉の力……?」
私は膝から崩れ落ちそうになった。
あんなに派手な演出と光を出しておいて、出てきたのが巨大な甘味処のメニューとは。
思わずはらりと涙が出そうになった
瞬間、その大福から手足が生え、パカッと開いた単眼が青く光った。
『マスタァ、認証完了。個体名……未設定。現在ノ状態……正常』
「な、なに……オール……ぐり?」
聞き慣れない横文字に私が首を傾げると、隣で柴さんが吼えた。
「龍左衛門様! 下がってくだされ! わけのわからぬ呪文を唱えております! この柴が試し斬りを!」
「待って待って! せっかくの須儀琉で召喚したやつだから! 壊さないで!」
「しかし、得体が知れませぬぞ!」
「えーい、もう、暴れるな柴さん! とりあえず様子を見るんだって!」
私が必死に柴さんの極太の腕を抑えていると、その白い丸っこいヤツは、殺気立つ柴さんを完全に無視して、短い足でトテトテと私の足元まで歩いてきた。
そして、つぶらな単眼で私を見上げると、その丸い体を器用に折り曲げて「お辞儀」をしたではないか。
『初期設定ヲ、開始シマ須』
「しょき……せってい?」
またしても謎の単語だ。ヤツは私の困惑をお構いなしに、淡々と機械的な声を上げ始めた。
『マズ、本機ノ「利用規約」ヲ読ミ上ゲマ須。第一条、本機ノ所有権ハ……』
「あー、うん。なんか難しそうだけど、それって長いの?」
『全文読ミ上ゲニ、概ネ、百刻ホド要シマ須』
「百刻!? 十日近くかかるじゃないか! 無理無理! あとで! 多分読まないけどあとで!」
私が手を振って止めると、ヤツは『承知』と短く答え、次の段階へと移行した。
『続イテ、本機ノ「利用目的」ヲ設定シテクダサイ』
「利用目的? お前、何ができるんだ?」
ヤツは単眼をピカピカさせながら、すらすらと答えた。
『家事手伝イ、子育テ、庭仕事、農地開拓、土木作業……』
「おお! すごいじゃないか! まさにスローライフのお供!」
『……暴動鎮圧、要人警護、拠点防衛、敵軍殲滅、焦土作戦』
「最後の方! 最後の方、物騒すぎるだろ!?」
思わずツッコミを入れる。農作業のついでに焦土作戦をやられてはたまらない。
「えっと、その……目的は『保留』! とりあえず保留で!」
『承知。汎用モードデ稼働シマ須』
ヤツは特に不満もなさそうにピボッと鳴いた。
『次ニ、個体名ノ登録ヲ』
「名前か……」
私は腕組みをして、目の前の白い物体を見下ろした。
白くて、丸くて、モチモチしている。
「よし、お前は白いから……『マシロ』だ!」
安直すぎる気もしたが、これ以外思いつかない。
『……登録。「マシロ」。イイ名前デ須。マスタァノ言語センスニ感服シマシタ』
「おい、今ちょっと馬鹿にしなかったか?」
マシロは私の問いかけをスルーし、最後の仕上げとばかりに私に近づいてきた。
『最後ニ、利用者登録ヲ行イマ須。右目ヲ開ケテ、コチラヲ見テクダサイ』
「右目? こうか?」
私が顔を近づけると、マシロの単眼から赤い光の帯が照射され、私の顔面を上下にスキャンした。
「うわっ、眩しっ!」
『虹彩認証、完了。生体データ登録、完了』
『コレヨリ、マシロハ、上桐龍左衛門様ノ忠実ナル下僕トナリマシタ』
ピロリロリン♪
どこか気の抜けるファンファーレと共に、マシロが再びお辞儀をする。
「お、終わった……のか?」
私は呆気にとられながらも、妙な達成感を感じていた。
横でずっと刀を構えたまま固まっていた柴さんが、恐る恐る口を開く。
「……龍左衛門様。その、丸っこいのは、本当に味方なのですか?」
「ああ、多分ね。よろしく頼むよ、マシロ」
『オ任セクダサイ、マスタァ』
こうして、私と柴さん、そして謎のハイテク大福『マシロ』による、奇妙な主従関係が結ばれたのである。
だが、この時の私はまだ、マシロが読み上げようとした利用規約の隅に書かれていた『※本機ノ使用ニヨル一切ノ歴史改変・爆発・国崩しニツイテ、製造元ハ責任ヲ負イマセン』という一文を、知る由もなかった。




