表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

そのボタン、押すべからず?


「……帰りたい」

「何を弱気なことを! まだ入り口から半刻(一時間)も経っておりませぬぞ!」


松明たいまつの炎が揺れる薄暗い坑道。

私のぼやきは、湿った岩肌に吸い込まれて消えた。

魔銀山の廃坑は、想像していたよりもずっと不気味だった。足元はぬかるんでいるし、どこからか風の唸るような音が聞こえるし、天井からは謎の雫が垂れてくる。


「いや、だってさ柴さん。ここ、絶対出るよ。お化け的な何かが」

「出たら某が斬りますゆえ、ご安心を」

「斬れるの? お化けって物理攻撃効くの?」

「気合で斬れます」

「脳筋だなぁ……」


ぶつくさ言いながら進むこと更に数十分。

不意に、坑道が少し開けた場所に出た。かつての採掘場の中継地点だろうか。

岩壁のあちこちに、蛍のような淡い青色の光が点滅している。


「ほう、こりゃあ……」

柴さんが松明を近づける。

「魔銀の欠片かけらでございますな。純度が低すぎて売り物にはなりませぬが、こうして集まると幻想的なもので」

「へぇ、これが魔銀……綺麗だなぁ」


私がその光る壁に手を触れた、その瞬間だった。


『ピロリン♪』


「ん?」

私の脳内……いや、目の前に、唐突に間の抜けた電子音が鳴り響いた。


「龍左衛門様? いかがなされました?」

柴さんが怪訝な顔をする。どうやら彼には聞こえていないらしい。


私の視界には、空中に浮かぶ半透明の「板」のようなものが出現していた。

そこには、須儀神宮の鑑定書で見たような、しかしもっと整然とした幾何学模様と、光る文字が浮かんでいる。


【周囲に高純度の魔力反応を確認】

【魔力充填率……120%】

【条件クリア:初期機体ユニットの召喚が可能】


「う、うわわわっ!?」

私は思わず尻餅をついた。文字が、空中に浮いている!

しかも、私の目の動きに合わせてついてくる!


「り、龍左衛門様! 敵襲ですかッ!?」

柴さんが即座に抜刀し、周囲を睨みつける。

「違う! 違うんだ柴さん! 見えないのか、これ!」

「は? これ、とは?」

「ほら、俺の目の前! 文字が浮いてるんだよ! 『召喚が可能』って書いてある!」


柴さんは目をぱちくりとさせ、何もない空間と私の顔を交互に見た。

「……文字、でございますか? 某には何も見えませぬが……はっ! まさか、それが龍左衛門様の須儀琉、【オートマタ】の力!?」


「た、多分そうだ!」

私は立ち上がり、興奮に震えた。

これだ。これこそが、私が待ち望んでいた「特別な力」だ!

今まで「役立たず」だの「昼行灯」だのと馬鹿にされてきたが、ついにこの時が来たのだ。

剣術なんて汗臭いことをしなくても、この「召喚」とやらを使えば、きっと凄い何かが現れて、私の代わりに働いてくれるに違いない!


視界の板には、いつの間にか大きな【召喚】という文字と、その下に【承認】と書かれた四角い図形が点滅していた。


「すげぇ……本当に何か呼び出せるみたいだぞ!」

私はニヤニヤが止まらない。

「柴さん、見てろよ! 今、俺の真の力が目覚める!」


「お、お待ちくだされ龍左衛門様!」

柴さんが慌てて私の肩を掴もうとした。

「得体が知れませぬ! 召喚とは何を呼び出すのです? 魔物やもしれませぬぞ! 一度屋敷に戻り、文献などを調べてからでも……」

「ええい、そんな悠長なこと言ってられるか!」


私は柴さんの制止を振り払った。

目の前には、私を呼んでいる輝くボタンがある。

男なら、押すしかないだろう! このボタンを!


「よく見極めてから……!」

「うるさーい! 習うより慣れろだ! ポチッとな!!」


私は人差し指を突き出し、空中に浮かぶ【承認】の文字を勢いよく突いた。


カチッ。


指先に、あるはずのない硬質な感触が伝わる。

直後――。


『承認。機体ユニットノ召喚ヲ開始』


無機質な声が頭に響くと同時に、私の足元にあった地面が、いや、坑道全体が、目も眩むような真っ白な光に包まれた。


「ぬわああああっ!?」

「り、龍左衛門様ァァァーーッ!!」


柴さんの絶叫と私の悲鳴が重なり、視界が白一色に染まる。

やはり、調子に乗って確認もせずに押したのは間違いだったかもしれない――。

薄れゆく意識の中で、私はそう後悔していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ